※過去捏造

俺がまだ、地下街でゴロツキをやっていた頃。エルヴィンとナマエに出会った。当時、ナマエは調査兵団の新兵で、まだ幼かった。年齢を聞くと「15歳。もうすぐ16歳になるの」と嬉しそうに答えていた。

第一印象は、ませたガキ。身長は俺より低く、顔は実年齢よりも幼く見える。しかし、壁外に出れば別人だった。巨人を次々に倒し、死を恐れない姿に唖然とした。しかし、兵団の仲間や、権力の無い庶民にとても優しかった。いつも笑顔が耐えなくて、すこしドジで、仲間が死ぬ度(たび)に泣いて…。でも、そんなナマエが愛しかったのだろう。俺はナマエに、しだいに惹(ひ)かれていった。

俺が調査兵団に入団して、しばらく月日が経ち、俺は兵士長となった。それとともに、ナマエは副兵士長になり、壁外調査ではいつも一緒にいた。そしてある日、俺は思いきってナマエに「好きだ。行く末には結婚してほしい」と告白した。ナマエは顔を真っ赤にし、嬉し涙を流す。

「なぜ泣く?」

「嬉しい…。私もリヴァイが好きだったから…」

「なっ………本当か?」

「嘘なんてつかない!………ずっと、リヴァイを見てきたから」

俺はそっとナマエを抱き締めた。愛しい。離したくない。ガキのような気持ちが溢れる。

「なぁ、ナマエ」

「ん?」

「挙式はどうする?」

すこし急ぎすぎたかもしれない。でも俺は相手がナマエなら、いつでもいい。

「挙式は…幸せな世界が来てから」

「なに?」

「私ね、聞いたことがあるの。この壁外には、"海"っていう、青くて綺麗な塩水の水がいっぱいあるんだって!」

「…そんなの、作り話だろ」

「そう思う?でも私は信じてるの!でね、そこでリヴァイと永遠の愛を誓うの。その"海"を眺めながらね」

「………フッ、素敵だな」

こいつは可愛いことを言う。ナマエと幸せな家庭をナマエと築きたい。きっといい夫婦になれるだろう。

早く、平和な時が来ますように。そう願った。



***

今回の調査はいつも以上に過酷だった。損失はいつもより遥かに多く、兵士の6割が既に死んだ。奇行種が多く現れ、そのせいで作戦は意味を成さなかった。ナマエは自ら囮(おとり)となり、俺はナマエを手離した。

「リヴァイ、私は必ず戻ってくる。必ずだよ。だから、リヴァイも死なないで」

「ナマエ………」

今まで手離したことのないナマエを、手離した。帰ってくると言ったナマエは帰ってこない。俺はナマエと最後に別れた場所周辺を、うろうろと歩き回り、ナマエを探した。

やっと見つけたナマエは、木にもたれかかるようにして眠っていた。最初は昼寝でもしているのか、と思うくらい、その寝顔はやすらかだった。でもナマエの下にある草は、ナマエの血で真っ赤に染まっていた。ナマエの小さな手をそっと握ると、氷のように冷たい。俺を見れば笑顔を見せていた目は、光を失い、その目に俺はうつらない。

ナマエが死んだと気づいたのは、随分と時間が経ってからだった。巨人に食べられた形跡はなく、きっと、この木に叩きつけられたのだろう。木を見上げると、上の方に赤い血のような痕(あと)が残っていた。俺は目線をナマエに戻し、ナマエを両腕でゆっくりと抱き上げた。

俺があの時、無理にでもこいつを引き留めれば良かったのか。俺がこいつを殺したのか。俺が…代わりに死ねば良かったのか…。

抱き締めたナマエが動くことはない。でも、ナマエが死んだなんて理解できなくて、冷たい体を温めれば、また生き返りそうだと思った。

「………………なぁ、ナマエよ…」

幸せだったか。そう聞こうとしたが、途中でやめた。こんな死に方をして、幸せだったわけがない。

「…"海"。一緒に見れなかったな」

挙式すると誓っていた"海"。お前はもう、そこに行っているのか?そこで、俺を待っているのか?

すると後方から、ドシッ、ドシッと巨人の足音が聞こえてきた。こちらに向かって来ている。俺は逃げず、ナマエをもう一度抱き締めた。もう離さない。

「ナマエ、俺が悪かった。俺がナマエを殺した。だから…お願いだ。俺に、跡を追わせてくれ」

これを罪滅ぼしとしてくれないか。お前が生きていれば、きっと怒るだろうな…。だが、分かってくれ。

ナマエのいない世界なんて、生きていても意味がない。

巨人の足音が近づく。俺はもう一度、ナマエを強く抱き締めた。

「………ナマエ、お前に会えて、本当に幸せだった。悔いはない。これからもお前を愛している」

ナマエの耳元で、囁くように言った。出来れば、お前が生きている間に言ってやりたかった───。



***

「ねぇ、リヴァイ!早く早く!!」

「そう焦るな。せっかくのドレスが砂だらけになるぞ」

「だって海だよ?綺麗だね!わぁっ、冷たい!」

白い砂浜を駆け、ナマエは純白のウェディングドレスを捲(まく)し上げながら、細い足を海に浸ける。これが俺たちの憧れていた"海"だ。俺は砂浜で靴と靴下を脱ぎ、ズボンの裾(すそ)を曲げ、海に入った。そして、はしゃぐナマエを後ろから抱き締めた。

「わっ、リヴァイ?」

「…ナマエ、愛している。永久(とわ)の愛を誓おう」

「ど、どうしたの?いきなり」

あまりの突然のことに、ナマエは笑いだす。笑われてもいい。お前にこの思いを伝えたかった。

「私もリヴァイが好き。愛しているよ。これからもずーっと一緒だからね」

「そうか…。嬉しいな」



なぁ、ナマエよ。お前のいウェディングドレスは、その"海"のに、綺麗に映えているぞ。
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