私の初恋の人の名は、ジャンというらしい。友達になったエレンから聞いた。でも、エレンとジャンは気が合わないそうで。

ジャン・キルシュタイン。

心の中で何度も復唱した。ジャン、そう、ジャンって言うのね。

気軽に「ジャン、覚えてる?」なんて言えたら楽なのに、それが出来ない。私とジャンはグループが別。ジャンとミカサとエレンは一緒だけど、私は違った。人数が多い104期生だから、もしかしたら私のこと、まだ向こうは知らないかもしれない。

喋ってみたい、私のことを覚えているか聞きたい。ジャンの声を聞いてみたい。そう思っていた時、私はジャンに出会った。二人だけの中庭で。

ジャンはベンチに腰をかけ、小説を読んでいる。今しかチャンスは無い。でも…知らないなんて言われたら怖い…。私のことは聞かないでおこう。私はジャンに声をかけた。

「あの…ジャン、だっけ?」

「ん?誰だ?」

やっぱり、私のこと、本当に知らないみたい。そうだよね、私、随分変わったから。

「私、104期生のナマエっていうの。良かったら仲良くしてほしい」

「あぁ、俺はジャン。こっちこそよろしくな!横、座れよ」

そう言ってジャンは自分の横をあけてくれた。その優しさにドキドキしながら、私はゆっくり腰かけた。チラッと横を見れば、ジャンはとても近かった。あんなに会いたかった人が、こんなに近くにいて、この人の目には、今は私しか写っていない。なんて幸せなんだろう。

「せっかくだし、なんか喋ろうぜ」

「そうだね」

するとジャンはいろんな事を話し出した。エレンと喧嘩した内容とか、マルコという友達との面白い話し。自分の将来の夢。全ての話を、私は一言も聞き漏らさずに聞いていた。喋ってみれば面白い人で、とてもいい人だった。

「ナマエもなにか話せよ」

「私?」

「あぁ、なんでもいいぜ」

ジャンは笑顔で言う。私もいろいろしゃべった。過去意外のことを。

「ナマエって面白いな」

「そう?ありがと。ジャンには負けるけどね」

「そうか?」

その時だった。向こうの方をエレンとミカサが歩いて行った。それをジャンはしっかり見ていた。

「あっ…あいつ!すまねぇ、俺、もう行くわ!」

「あ、うん!またね!」

「おう!」

ジャンはエレン達に向かって駆けて行った。ぽつんとベンチに残された私は、ただただ、さっきまでの幸せの余韻(よいん)に浸(ひた)っていた。



愛を唱えて
(あなたとの恋を夢見て)

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