海に浮かんで


「調査兵団で生存できるのは、ほんの一握りの人間だ。毎回、壁外調査で多くの兵が死んでいる。でも…名前は死なせない」

リヴァイ兵長の言葉が頭の中でループする。どうして私を死なせないのだろう。エルヴィンさんの知り合いだから?それとも私が調査兵団に必要な戦力だから?そもそもなぜ新兵の私が兵長補佐に?考えれば考えるほど、頭が痛くなる。

こういうことって、深く考えない方がいいのかもしれない。私は与えられた役職で、与えられた任務を遂行すればいいだけだ。

考え事をしながら歩いていたせいで、曲がり角から出てきた人に気付かなかった。私は誰かにぶつかり、おもいっきりしりもちをついた。お尻は地味に痛いけど、まずは謝らないと…!

「あの…すいません!」

「大丈夫大丈夫!よそ見してたらぶつかっちゃった。ごめん、怪我はない?」

「は、はい」

ぶつかった人はずれた眼鏡をもとに戻し、しゃがみこんだ私に手を差し伸べた。私はその手を掴み、立ち上がった。

「いやーほんとごめんね!………って、エルヴィン団長の噂のお嬢さん!?」

「はい?」

この人は一体、何を言っているのだろう。エルヴィンさんのお嬢さん?私が?

「めっっっちゃかわいい!!君みたいな子が調査兵団?こりゃ団の士気もあがるわぁ!!」

いきなり興奮しだす眼鏡の人。いや…私、エルヴィンさんの娘じゃないし…。

「私、エルヴィンさんの娘ではありませんよ」

「………え、違うの?」

「はい、エルヴィンさんは私の両親の友人です。私は今回、調査兵団に入った名前・苗字です」

「あー、リヴァイの補佐ね!私は調査兵団分隊長のハンジ・ゾエ。よろしくね、名前ちゃん」

「はい!」

ハンジさんも調査兵団なんだ…。調査兵団の人って怖い人ばかりのイメージがあったけど、そうでもないみたい。

「名前ちゃんって、確か今年の首席だよね?」

「はい、厳しい競争の末、なんとか首席で卒業できました」

「なのに細くて小さくて…!小動物みたい!」

「ぐへっ」

ハンジさんに抱き締められ、思わず変な声が出る。苦しい…。っていうか、こんな状況を誰かに見られたら、誤解されるんじゃないかな。どうか知り合いに見つかりませんように…!

すると後方から、足音が聞こえてきた。振り向こうにも、ハンジさんに抱き締められているため、それができない。知り合いではありませんように…!

「…お前たち、なにをしているんだ」

「あ、リヴァイ!お仕事お疲れ様ー」

よりによってリヴァイ兵長に見つかるなんて、運が悪いな、私…。

「そいつを離せ」

「いいじゃん」

「いいから離せ」

「そ、そんな怒んないでって!」

リヴァイ兵長の顔色は、ハンジさんに抱き締められているからうかがえないけど、声はすごく怒ってる。そうだよね、兵長は仕事をしてたのに、私達はじゃれているから…。

ハンジさんに離してもらい、私はリヴァイ兵長を見た。リヴァイ兵長は腕を組み、こちらを睨み付けている。怒られるのかな…。訓練兵時代、教官に怒られた記憶がフラッシュバックする。辛かったな、あのときは…。

「…いつ名前と知り合った」

「ついさっき。ね、名前?」

そういってハンジさんは私の肩に腕を回してきた。スキンシップが多いな、この人。

「はい」

「おいハンジ、そいつに触れるな」

リヴァイ兵長は眉間にさらにしわを寄せた。ハンジさんは苦笑いをしながら腕をおろす。

「リヴァイ、いい補佐もらったじゃん。ねぇ、この子ちょうだいよ。一緒に巨人の研究したいし」

「ダメだ。そいつは俺の補佐だ。それに、そいつに巨人を解剖したりすることが出来るのか?」

え、巨人を解剖?調査兵団って、そんなお仕事までするの?

「それはこれからの私の教育次第さ!名前、リヴァイが嫌になったら、すぐに私のところに来て?」

「え、あ…その………」

「おい名前。俺のもとから離れたら、お前のうなじを削ぐからな」

リヴァイ兵長はそう言い残して去っていった。

それって死刑ってことですかリヴァイ兵長。冗談だと分かっていても笑えない。すごい威圧感だ…。

チラッと横目でハンジさんを見ると、なにやらニヤニヤしていた。

「まさかあのリヴァイが………それはないか!」

なんの事かさっぱり分からない。ハンジさんの眼鏡が不気味に光り、どこか怖い。でも、ハンジさんはなにか楽しそうだ。

エルヴィンさん、私、調査兵団でやっていけるでしょうか。早くも不安になってきました。

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