悲しみは海となり
私は小さな村に住む幼い少女だった。
両親は調査兵団の団員だった。しかし、とある日の壁外調査で両親を失い、祖父母の家で育てられたが、その祖父母も亡くなった。私はまた、独りぼっちになった。
人生に絶望しかけていたある日、私しかいない家にお客様が来た。それは父の友人のエルヴィンさんだった。エルヴィンさん何度かお会いしたことがある。どうしてエルヴィンさんが…?
エルヴィンさんは私を怖がらせないように、優しい表情をして、背が低い私に目線を合わせようと、わざわざしゃがんでくれた。そして、私を落ち込ませまいと、無理に明るい話題をひっぱってきた。エルヴィンさんが無理をしていることぐらい、幼い私でも痛いぐらいに分かった。
私はなんだか申し訳なくなって、エルヴィンさんを家の中に入れた。温かい紅茶を入れ、エルヴィンさんの前に差し出した。私はエルヴィンさんの向かい側に座った。
「すまないね、お茶を出してもらって」
「いえ………あ、あの、何をしここへ?」
「…実はね、君を引き取りに来たんだ」
「………えっ」
エルヴィンさんのいきなりの発言に驚いた。エルヴィンさんは独りになった私を気遣い、私を養女に迎えたいというのだ。私を引き取るにはこうするしかないらしい。
「分かるかい?…急に私の娘になるなんて、それは大変かもしれない。調査兵団に入るという方法もあるけど、それは可哀想だから…」
「………私、調査兵団に入りたいです」
「…え?な、なぜだ」
「調査兵団に入って、両親の敵(かたき)を討ちたいです」
エルヴィンさんは一生懸命、私を説得してくれた。調査兵団がどれほど危険で、どれほど恐ろしいものか。でも、私の信念は揺るがなかった。幸せを奪った巨人を倒したい。頭の中はそれでいっぱいだった。
そしてついにエルヴィンさんは折れ、私を娘ではなく訓練生として引き取った。
そして翌日、エルヴィンさんは再び我が家を訪問してきた。今までお世話になった家に別れを告げ、エルヴィンさんの大きな手を、小さな手で握り返した。エルヴィンさんが乗ってきた馬に荷物を乗せ、ゆっくり故郷を出る。
その時、これが私の新しい人生始まりなんだと感じた気がした。