水面に手を伸ばす
リヴァイ兵長の部屋に行ったあの夜から、私はリヴァイ兵長を避けるようになった。私がリヴァイ兵長を意識しすぎてしまっている…。リヴァイ兵長を見ると、心臓が早くなって、人身が熱くなる。執務にも任務にも支障が出てしまいそうで…なるべくハンジさんやエルヴィンさんのそばにいる。兵長とは必要以上に喋らない。そんな毎日が長く続いた。
私はハンジさんと二人で、巨人のことについて詳しく書いてある書物を漁ったり、読んだりしていた。今までなら、こんな書物漁りはせず、リヴァイ兵長と二人で武器を研いだり、訓練をしたり、掃除をしていただろう。
書物を黙々と読む私に、ハンジさんが問いかけてきた。
「なぁ、名前?」
「どうしましたか、ハンジさん」
「どうしていきなり巨人なんかに興味を持つようになったの?私みたいになるよ?」
「ハンジさんがいつも幸せそうに語っているからですよ。私も巨人についていろいろ知りたいですし」
「そう!?さすが名前だね〜!もう大好き!」
「ありがとうございます」
ハンジさんは鼻歌を歌いながら、再び書物を漁る。面白そうな本は床に置いていくため、ハンジさんの足下は書物で埋まっていて見えない。私は梯子(はしご)に座りながら、また本を読み出した。この本、意外と面白い。
しばらく時間が経ち、ハンジさんは一通り、書物を出し終えたらしい。足元の書物を並べ始めた。私は分厚い本を半分まで読み終え、栞(しおり)を挟み、ハンジさんのお手伝いをした。
「悪いね、名前」
「いえ!ハンジさんのお手伝いをすることが、私の本来の役目でしたし。すいません、読み更(ふ)けてしまって…」
「いいのいいの!その本、面白かったら持っていきなよ!」
「いいんですか?じゃあお借りしますね!」
私はその本を、自分の後ろに置いた。夜にでも読もうかなと考えていると、ハンジさんは声を低くし、私に問った。
「聞きづらいんだけどさ、リヴァイとなにかあったの?」
「え?」
突然聞かれた真面目な質問に、思わず気抜けた声が出る。
「リヴァイが気にしてたよ。最近、俺の傍からすぐ離れやがる、ってね。今もこうして私と書物漁りしてるし。エルヴィンも心配してたよ、もうすぐ壁外調査だし」
「あ…」
そうか、もうすぐ壁外調査があるんだ。壁外調査では、私はリヴァイ兵長の補佐だから、ずっと傍にいる。作戦を実行するときも、ずっと。
「リヴァイとなにかあったなら、早いとこ仲直りしときなよ?壁外では命を預け合うんだから」
「………」
命を預け合う。その言葉が重くのしかかる。そうだ、あんな出来事でリヴァイ兵長を避けていたら、命を預け合う事も出来ない。もっとしっかりしないと…。私はリヴァイ兵長に謝ろうと決めた。
「さて!運ぶの手伝って!」
「はい!」
そう決めたけれど、結局リヴァイ兵長に会う機会もなく、そのまま壁外調査の日が来てしまった。