貴女にagapeを


俺は名前をベッドの上に座らせた。名前は未だに状況が理解できない、といった顔をしている。

俺はとりあえず、出しっぱなしだった救急箱をしまった。

「あの、兵長。どこかお怪我なされたんですか?」

「気にするな。ただのかすり傷だ」

「…私のせいですよね。…すいません」

「誰もお前のせいだと言っていない」

俺は名前の横に腰かけた。そのせいで、ベッドがさらに沈む。肩が触れそうな距離に、名前はすこし距離をとった。

「なぜ避ける」

「恥ずかしくて…」

「…そうか。…お前に一つ、聞きたいことがある」

俺がそう言うと名前は、うつ向けていた顔をあげ、俺を見た。

「なんでしょう?」

「…お前は相手が誰でも、こうして夜に部屋に来るのか」

「…それは、どういうことでしょう」

「男の部屋に、こうしてノコノコとやって来るのかと聞いている」

俺がすこし口調を強めると、名前の顔は青ざめていた。俺の顔色を伺っているようにも見える。俺の今の気分は良くない。むしろ不機嫌だ。

「兵長、すいません…」

「俺以外の男でもこうしていたか」

「そんな!…今日はお礼を言いに来ただけです。これが終わればすぐに帰ります」

そう言って名前は立ち上がろうとする。俺は名前の手を掴み、もう一度座らせた。そして、名前を押し倒した。

「へっ、兵長…!?」

「いいか、俺以外の男の部屋に行けば、お前はすぐにこうだ。お前は力のある兵士だ。しかし、その華奢な身体では男を押し返すことも出来ない。………分かったのならすぐにここから出ろ。…誰にも見つかるなよ」

俺はそう言って名前の上から退いた。名前はぼーっとしていたが、すぐに立ち上がり、ドアまで早足で駆けていった。ドアの前まで行くと、名前はなにか思い出したようで、こちらに振り返った。

「あの、兵長」

「まだなにかあるのか?」

「おやすみなさい!」

顔を真っ赤にしながら、名前は去っていった。最後のおやすみなさいは反則だろう…。俺はベッドに倒れこんだ。俺は相当、名前に溺れているらしい。

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