水に触れる手は
今日は立体起動装置の訓練です。
着替えをし、髪型を整え、急いで部屋を出た。遅刻ではないけど、いつもより遅い。兵長怒ってるかな…。
食堂に顔を出せば、すでにリヴァイ兵長とハンジさんがいた。ハンジさんは私に向かって手を振る。どうやら私を呼んでいるようだ。私はハンジさんとリヴァイ兵長のもとに向かった。
「名前!おはよ!」
「ハンジさん、リヴァイ兵長、おはようございます」
「遅ぇ」
リヴァイ兵長は腕を組み、吐き捨てるように言った。もう食べ終わってる…。
私はハンジさんとリヴァイ兵長の間に座った。机の上にはパンとスープが置いてあった。私はそれを急いで食べ始める。しばらくして、ハンジさんがパンを片手に話しかけてきた。
「リヴァイがね、ずーーーっと名前はまだか?寝坊か?とかうるさくってさー。きっと名前がもうすこし来るの遅かったら、リヴァイが名前の部屋に侵入してたかもね」
「!?」
「ハンジ…てめぇ殺されてぇのか」
「冗談だよ冗談!ハハッ!」
冗談なのになんだろう、この殺気は…。この二人、仲がいいのか悪いのか、全く分からない。
「名前って、立体起動装置は得意なの?」
「速さでは訓練兵団の中で一番でしたが、本物の巨人を目の前にして、その力が発揮できるかは分かりません…」
「発揮しなかったら食われるぞ」
「は、はい!」
「もう…リヴァイ…」
***
食事を終え、訓練に入った。
私は立体起動装置をつけ、指定の位置に立つ。目の前には大きな木が生い茂る林。ガスは満タン。刃も全部揃えた。体調もいい。
この訓練を受けるのは、リヴァイ兵長やハンジさんを含めた約20人。巨人の模型が中にあり、その首を一体でも多く削ぐという、訓練兵団の時の訓練と同じような仕組みだ。唯一違うところは、周りにいるのはベテランの調査兵団だということ。ここにいる人達は巨人の恐ろしさを知っている。
するとリヴァイ兵長がこちらに歩み寄ってきた。
「兵長?」
「どうした、緊張しているようだな」
「そう見えますか?」
「あぁ」
気丈に振る舞っていたつもりだけど、リヴァイ兵長には見抜かれていたようだ。リヴァイ兵長は私の顔をのぞきこむように、目線を合わせてきた。
「お前はエルヴィンも期待する優秀な兵士だ。胸をはって頑張ればいい。これは本番ではない」
リヴァイ兵長は私を励ましてくれているらしい。それが嬉しくて、赤くなった顔を見られないよう、うつむく。
「どうした?まだ不安か?」
「大丈夫です!ちょっと緊張しているだけで…。この中で一番になれるように頑張りますね」
私がそういうと、兵長は一瞬、目を丸くした。そして私の頭をワシャワシャと撫で、何も言わずにまた去っていった。兵長に撫でられた髪はぐちゃぐちゃ。でも頭にはまだ兵長の温もりが少し残る。リヴァイ兵長って、部下の扱いに慣れているんだ…。だから部下にこんなに慕われているんだ。いいな、私もリヴァイ兵長のような人になりたい。
そして、訓練開始の音が鳴る。私は両手の武器を強く握った。