「あぁ、シンデレラ、一体君はどこに居るんだ」


昨晩の舞踏会で12時の鐘と同時に、
僕の前から消え去った彼女が手がかりとして残したのは、
このガラスで出来た靴だけだった。


「王子様、次の家までもうすぐです。」


「あぁ、分かった。」


「では、私共が行って参りますので、王子様はここでお待ち下さい。」


ある家にお城の使いがこんこん、とノックをすると、
1人の女性が、待ってましたという様に裸足で出てきた。
今日、城の使いが家に来ることは伝えてあるので、
大体の女性の方はこういう方ばかりだった。


「では、早速始めましょう。」


「待って、お母様。」
「そうや、私たちをお忘れになられて?」


そう言って出てきたのは女性の娘たちだった。

そうして3人が試してみるものの、やはり靴が合わず、
帰ろうとすると、部屋の奥の方から声が聞こえてきた。


「私にも、履かせて頂けないでしょうか?」


ほう、汚らしい恰好をしているが、随分美しい娘だ。


「分かりました、どうぞ。」


「あはははっ、アンタなんかが入る訳ないでしょう!!」
「何、少しは綺麗なガラスの靴でも履いてみたくなったの??」
「あー、ほんと、こんなやつに王子様が惚れるわけないのにねー」


言いたい放題の姉たちを無視して、彼女が靴に足を入れると、
私もびっくりするぐらいピッタリだった。


「し、少々お待ち下さい!!」


急いで王子様を呼ばなければ!!


「え、?」
「どういうこと!?」
「あんた、一体どんな手を使ったの!?」


姉たちが状況を読み込めない中家の扉が、ばんっ、
と勢い良く開いたと思えば、そこには王子様が。


「シンデレラ!!」


「王子様...」


「何故、君は昨日急にいなくなってしまったんだい??」


「それは、」


すうっ、と息を吸うシンデレラ。


「魔法使いさんに12時までには魔法が解けて、汚らしいこの格好に戻ってしまうと言われてしまいまして。王子様と踊ったはいいものの、私は12時直前のギリギリまで自分を追い込んで、王子様に本当の姿を見られてしまわないかというスリルを味わっていたのです。そして、早く家に帰って義母や義姉たちに辛辣な言葉を言ってもらいたかったというのもあります。掃除をさせられるのも洗濯をさせられるのも私にとっては、快感でありました。昔は嫌で嫌で仕方なかったのですが、時間が経つにつれてどんどん命令されることへの快楽を覚えてしまい、以来、追い込まないと何もできない出来損ないになってしまったのです。あぁ、こんな私をもっと罵倒して頂きたいのです。やはり、私には、」



「...あの、人違いですよね」


M気質のシンデレラ

(あんた、凄いわね...)
(王子様のあんな馬鹿みたいな顔初めて見たわ)
(王子様!!気を確かに致して下さい!!)
(あ、あぁ、すまない。少し驚いてしまって。)
(...???)


こんなシンデレラは嫌だ。