Lと月





御免ねりゅうざき、夜神月はほほ笑んでそう言った。

カレッジスクールには陽光がさしこみ、現実離れした聖拝堂のような雰囲気が漂っていた。つくえたちが蜜いろに光る。甘やかされたようにきらきらと横になっていた。
あるいはここは墓場かもしれないと竜崎は思う。竜崎はついぞ学校というものに適応できたためしがなかった。大抵の人間は見かけで竜崎を避けたし、彼の頭の良さはずいぶん彼らをおじけづかせるらしい。

友達になってはくれないんですか。
竜崎はそう言った。卒業式の日だった。
花束や涙があふれるこの日に模範生の彼は一輪の花も一滴の涙も持ってきはしなかった。
夜神は天使みたいにわらった。御免ね竜崎、もう一度そう言って窓の向こうをまぶしげに眺めた。
僕はずっとひとりだったからともだちの作り方なんて忘れてしまった。僕はもう一生ともだちなんてつくれないだろう。
そう淡々と美しい青年は言うのだった。孤独の殻は彼を周りから覆い隠し、守りもしていた。
竜崎は制服のポケットに手を突っ込んだ。
御免ねりゅうざき―彼はこちらを見たままゆっくりと背後の窓へと近づいていった。
「どうしてですか?あなたがキラだからなんですか。あなたがキラだから、わたしと友達になれないんですか」
問うと夜神はにこりと笑う。竜崎は彼に歩み寄る。この耳でしかと聞きたい。自分がキラだという囁きを。幾度もその瞬間を夢見た。
月はゆるりと微笑をほどいた。結局のところ竜崎だって、友情なんてものは欲していないのだった。彼の辞書にはおそらくそんな言葉はないのだろう。
白いカーテンがさらさらと揺れる。
僕はひとを殺したよ、と月は言った。竜崎は目を見開いて動きを止める。その暗い昏い穴のような目を見つめて月は思う。ほんとうは頭がいい人間なんてきらいなんだ、彼らは傷つけることを躊躇わない。
夢の中にいるようだった。たとえば薔薇の芝生があって、それは迚も好い匂いなのだけれど、迚も柔らかいのだけれど、ちいさなとがったとげたちが時折、月をちくちくと刺して、月をたまらなく悲しくさせるのだ。月は大きく開いた窓の前に立つ。竜崎が追うように手を伸ばす。
御免ね竜崎、ひとを殺したから、ぼくはどこかで間違って、ひとを殺さなくては生きられなくなってしまったから、夜神月はそう夢見るように呟いていた。
傷つけられたくなくてひとを殺した。そんなの間違いだから、御免ね竜崎、おまえが僕を赦してくれる人間だったらよかったのに、でも間違いを許すおまえなんておまえじゃないね、だから御免ね竜崎、
竜崎は涙を零さなかった。身を投げた夜神の涙が代わりみたいに彼の指に残り濡らす。
人を殺して御免なさい、と最期に呟いて、夜神月は逝ったのだった。


120204





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