私の男





※温い性描写
書きかけ






蕩けながら腐り落ちて、あとは夜に紛れていく。


男の醸す昏いよくぼうたちが段々に檸の体を解いていく。窓の外で降りしきる雨の濃密な気配が、モラルとか、倫理とかの箍を押し流す。一緒に朽ちようね。どろどろとこごり、甘えと堕落の匂いのする情を檸と淳は交わした。二人の代わりに泣き喚いている空をいとおしいと檸は思う。どうしようもなくゆきづまり、往生してしまった愛が、生まれ損なった卵のなかのものみたいに腐り饐えていくのがみえる。
布団の上で男の頭を撫ぜた。砕かれていく。剥がされていく。壊れていく。行程の一つ一つがいじらしいほど律儀で、美しかった。滅びゆくものどもの気配を檸は味わう。おちていく。
男は、そうして、苦い男だった。腐り落ちてぐずぐずに成りゆくことを望みながら生きている男だ。つみを犯したのかもしれない。どうしても落ちきれぬ、であるのに自堕落が染み付いている、そういう種類の、血統の男だった。穢くぜつぼうを見逃しながら、生きたままに、老いている。枯れきった絶望の、その、愛しさが。檸を男に手を伸ばさせる。器量だけはある男で、そうしながらどこかこちらに縋らない、独りで死ぬのを選ぶ気高さがあった。死にたいのなら、しねばいい。そう云えば、この男はきっとねじけたように笑う。それとも振りだけはするだろうか。ねいぃ。死のうよオ。そう言ってこちらの首を締めるふりをして――檸の首に熱を擦りつけてから、一瞬さみしげな、皮肉げな笑みを浮かべ、おのの薄い腹に刃物を突き立てる。
唾液の生温さと、布団の中の泥濘のような体温と。ある種まったく馬鹿げた愚かさのなかで男と女は絡み付いている。きたなさをゆるしあい、求め合うことだけを繰り返す。「にぃさ、ん」檸は喘ぐ。
この男が厭わしくも愛おしい。義理の兄として、当時高校生だった檸のまえに現れた七つ上のおとこは、そのときから、暗い目と、けれど親しみやすい自堕落さをもって檸の心臓を騒がせた。男の人などきまじめな父と教師、幼い同年代しか檸は知らなかった。男の酒をあおる姿を、彼女は淳で初めて見たと言っていい。そこにはどことなく凶暴さの漂う風情があった。
」」120124


インスパイアド桜庭一樹
続きは思いついたら
淳悟かっこよすぎだろ…



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