やわらかな傷痕





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R18
屈折シリアス暗い不憫
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滑稽と評して良いだろう。否、敢えて言わせていただいても宜しいだろうか。非道く馬鹿げた寸劇であると。
身代わりで良いわと。わたしは言った。彼女を好きな貴方が好きだからと。死んだ少女を乞う貴方のどうにもならない愚かしさすら、愛しているのだからと。
松雪は化け物でも見るような目をした。
自分が本気で言っているのではないことを千利子はわかっていた。幾らばかだってね、分かるのよそれくらい。どんなに勉強したって成績はあなたに及ばないような女だけれど。
纏わされたのは聖遺物。
まったく、救いようもない。


ひっきりなしに孤独が喉までせりあがり、嗚呼どうして? 嗚咽に似たそれはまるでおもねるような響きであった。恐かった。恐かった、なにも言わない彼は人形のようで、結局オナペットを志願したわたしはその断絶を知る。彼は彼なりにその邂逅を愉しんでいたようでは、あった。相手が似ても似つかない、出来の悪いダッチワイフであったにせよ。それはともかくは女であるぶんだけ、鏡の中の女装よりは情欲をそそったのに違いなかった。フェラチオ。彼は――服に、自分のそれを弾けさせることを好んだし、実際のところ服だけでだって特に支障もなく抜けたのだろう。
精液の味もにおいもわたしにはすきになれなかったけれども、彼がすきだった、好きで好きで好きで好きで、我ながら狂気じみていると思うほどに彼が好きだった。(こんな関係は誤っている。けれどはじめにミスを犯したのは神様だった(姫の殺害)、ならばこれも運命だと、云って云えないこともないではないか)
彼との糸を絶ちたくなくて、そばに居れる方法を捜したら、たどり着いたのはこの愚挙だった。そうしてわたしは薄々予感していたようにも思う。遅かれ早かれ、こうなってしまうであろうこと。

問 あなたと彼は今何をしていますか。漢字ニ字で答えなさい。
頭のなかにそんなものが去来し彼女はわらう。同衾や交歓なんて言葉は相応しくはない。交尾だろう、有り体に言ってしまうのであれば。或は震動であるだろうか。そう表現されるべきなのであろうか。
部屋の壁際に据えられたベッドに追い詰められて後ろからのしかかられている。けものの行為だ、けものの!知性をもたないものどものすることだ。どうしてこう頭が引っ切りなしに物を考え続けているのか自分でもよくわからない。
勉強机の上には教科書と帳面が投げ出されている。あれらの頁の上は、整った形の文字の織り成すひどく禁欲的な空間が広がっている。整然と居並んだ活字どもはそしてそのゆえに官能的だ。
男と女がはしたなく腰を揺らし合っている。耳元で、松雪が喘ぐように言葉を零した。
「――っ…×××…っ!」
その三文字にわたしは、希望と絶望を同時に見出だす。なんて惰弱で、なんて狡猾なけものなの。わたしは?
それでも気持ち良くてたまらなくて、彼と繋がれたことが嬉しくて。
顔を押し付けたシーツにはぐしゃりと皺が寄る。啜り泣くような喘ぎと唾液を口から漏らして、千利子は意識を手放した。


泣いてしまおうか。
自嘲と共に千利子はぼんやりとそんなことを考えた。
夜の駅、まばゆい自動販売機の前。塾帰り。
彼女はわらう。(泣いたってどうにもならないことぐらいわかっているんでしょう?)
悲しみだの絶望だの寂しさだのが彼女の喉を詰まらせえずかせる。つらい、けれどだってどうにもならないことじゃないの。彼が好きだ、まるで終りのない迷路のようだ。好きでだから抱いてほしくて、――彼の世界にはけれどもめんまだけしかいない、わたしの世界に、ゆきあつしかいないのと同じくらいに。夏の虫がべとりと自販機に貼りついて死んでいる。
ねえでは一体どうすればいいというの。
「恨むわ、よ、神様」
胸が痛い、ただただがらんどうの胸が。吐き気がする。
くやしい、彼が好きだ、あんなひどいことをされても好きだ。小さい頃からずっとずっと好きで、好きで好きで好きで。ただただそれだけで泣いてしまえるほどには、すきですきで、ただただ、ただどうしてなのか思慕だけが膨れ上がり続けていく。それをせき止める術がない。






題は無論coccoです

120102-05


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