SHCH





不思議なものだ。

喩えば生きていくということの上での均衡に就いてSHは頻く考えている。なきだしたいほどの憧憬に押し付けられる鉄の棒。その中でひとは生きていけないものだ。ひとは機械ではないのだから、彼等は感情をもつのだから。
機械に泣くことは出来ぬだろう、機械が苦しむことはないだろう。
動物になりきるには理性が有り、機械になるには感情がある。其れがにんげんという、美しくも愚かしい動物の悩みなのだ、捨て置かれた肉体をそれでも――総て脳化したこの現し世に立ち現れるのは恐らくはただただ死への畏れである、原始の時代の者どもが丁度それを畏れたように。そして宗教…それは人々の安寧である、生きるというのは不安だから、何かに約束されている感覚を、ひとはいつも求めるものだ。産まれてきた理由などない、愛される理由などないのだ、そしてそれは酷く…耐え切れられぬ事なのだろう、特に理由を求めることを習性とする人種には(それを愚者達は賢者と呼ぶ)。

則ち生の残酷さを受け入れる事だ、SHは何もしないで生きるには人生は長すぎるという言葉には同意する、だが続く言葉には承服しかねる…それはおまえの目覚めがあまりに遅かっただけだろう、お畏れながら申し上げれば!私は生きるということが怖い、考え続けるということが孕む絶望がいつか、自分を飲み込む日が来るのではないか、そうして生きるということが、耐えられぬほどに辛い行為であるのだと、証明されて仕舞う日を恐れている。そうしたら首でもくくるかとSHは思う。考えることは透けさせることだ、物事の本質を見透かすことだ、そうして――自らの仮想空間に自分を飼い馴らすことだ。いやな孤独だ、そう孤独は辛い、がたがたとこの身を震わせる、ただただ生きるということはそうなのだ、自分の脳に、自分独りで棲むものなのだ。こころを傷つけ他人を切り裂き、そうして老いてゆくというのか、それが生の本質なのか。なればわたしは生きてはゆけぬ。
…冬は孤独を浮き彫りにする、寂しさを掻き立てて一人では堪らなくさせる。
愛されたいと思わされてしまう、抱きしめられたいと感じてしまう、甘い麝香を嗅ぎたくなる。危険なことだと知っていた。

お姫様は脳のお城に篭りきり。
さて王子を信じ手をとって、生を踊るのはいつの日か。
古来より好まれるのは恋の話。古今東西凡百(あらゆる)幾億の書物どもに、それは織り込まれてきただろう。愚かさを寄り合わせ夢をみながら生きなさい。
歴史を見よ!最も孤独で心細い時代を生きたのは、本の無い時代の者共である。少なくともCHはそう思うている、伽の話にも逃げ込めず、現実のなかで八つ裂きになり死んでいった者どもである、そしてCHは供養する。傷つき弱る総てのにんげんに涙する。彼は博愛主義者である。番いの主人を別にすれば。賢い男は待つ者なのだ、果実が身を差し出せるまで実るのを、辛抱強く待つものなのだ。だから今はただ願うだけ――早く甘い傷口を見せて、貴方の涙を啜らせて。




111220-気分



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