或る童話





※とても暗い
※短い











場所――暗い劇場
口上――支配人

(暗闇が劇場を覆う)
(有象無象のヒトの群れ、いや、本当に人間だろうか)
(幕が上がる)

先ずは銀の髪をした少女。これは非常に貴重な少女です。絶滅危惧種でもあります。彼女の無垢さと屈託のなさはなかなか得難いものであります。なかなかこうはいかずに、(ちらと私を横目で見る支配人)ええ、そう、屈折していくものでありますね。
そうして次にはそう、蜂蜜色の髪をした、見目麗しい青年が必要であります。彼は頭も良く、また屈強でもなくてはいけません。さても容姿端麗頭脳明晰、家柄も良い王子であります。しかしそれだけが――ふたりを幸福にするのではありません。ではお伽話のお姫様を幸せにするために一番必要なのはなんでしょう。
(支配人歯茎を剥き出す。血走った目が観衆に走らされる)
(愛でしょうと私は呟く)
(誰も見向きする者はない)

ええ、そう、愛です。王子には真実の愛をもってもらわなくてはなりません。それが条件です、王女を愛すための。

――かくして幕は下ろされる。彼は毒林檎を食べた白雪姫を永遠に愛しつづける。口づける資格をもたない彼は棺を開けることもできない。偽りの王子は薔薇の頬に焦がれたネクロフィリアへと身を窶す。聖遺物だけをなぐさみに生きる、違う話のなかの硝子の靴のように。かわいそうな王子はそれを履いてみようと試みて―愚かにも割ってしまうのである。
彼に想いを寄せる下女は多い。けれど彼女たちは物語られることはない。
お伽話は王子様とお姫様がいればいいのだから。それにそもそも王子の瞳は銀糸の姫しか映さないので、彼女たちが存在する意味はないのである。


(失敗しましたと悪魔のように支配人は笑う)

(わたしはきっとここが地獄なのだろうと薄ぼんやりと思っている)



111031

つるこの夢は童話作家なんですね


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