Lと月





例えば。


例えば夜神月がキラであったとして。いや―その仮定が最早単なる事実に過ぎないことを誰よりも理知的なエル・ロオライトは本能に近い部分で確信していた。彼は知性がある。自分と渡り合える程の賢さを有している。弱冠十八歳の青年がそれほどの強靭な精神と清烈な思考能力をもつことに、確かにエルは驚いていた。そして彼を犯罪者だと確信することと同じほどに、彼のことを非常に高く買っていた。いや、対等の存在だと認めていたといっていいだろう。(そう、でなければ、友達などと言うものだろうか。あの言葉は不思議とついと、口から出てきたものに思われる。たとえそれは何よりも紛れないブラフだとお互いが諒解していたのだとしても。彼自身の不愉快なまでの自尊心の高さは、彼が一番よく知っていた。友人など、誰に向かって言ったことがあっただろうか?見え透いたことしかせぬ人間たちになぜ、親しみだのを覚えられるだろう。彼等の頭の中の計算は、たいていが手にとれるようだ。それに彼等の大半は随分愚かで、間違いもよく犯していた)

手錠で番になって何をしようとしているのだろう。
いまのおまえはキラではない。キラではない。つまりおまえは私の知る夜神月ですらない。おまえは誰だ。幾度そう問い詰めたくなったことだろう。キラとは何だ。おまえという人間は一体―一体何を秘めている。
恋心みたいねと言った女はのどかに、そしてひたすら間抜けそうに、細い手足を投げ出してクッキーを食べていた。弥海砂。
隣に座る夜神月がぎくりと居心地悪そうに身じろいだ。
「気持ち悪いこと言うなよ、ミサ」
「えー?」
だってそうじゃない。
金髪を照明に光らせて弥は笑った。媚びるような笑みだった。
「だって竜崎さんは、月を捕まえたくてたまらないんでしょ。月のことが知りたくてたまんないんだ」
突き出された唇が光る。剥き出された小さい白い歯。赤い歯茎。弥はよくこうした仕種をする。
「探求心ですかね。恋心、というよりは」
エルはケーキにフォークを突き刺しながら答えた。弥が不審げに顔をしかめた。「探究心?」
「ええ。例えば1+1はいくつでしょうか、海砂さん」
また海砂のこと馬鹿にして…弥はそう言う。ぎょろりと目を動かして視線を合わせると彼女は渋々、2でしょう――と言った。
「当たりです。では2+2+2は」
「6」
「そうですね。数字が増えると九々という法則がみつかるわけですね。こういうふうに追っていくとどんどんいろいろな法則が見えて来るものなんです。それを見つけていく、探し求めるのが私は好きです。数字は嘘をついたりしませんが、月くんは頭が良いのでなかなか法則が見つかりません。自分で法則を隠してしまうんです」
かくしてそこに、キラという名の、夜神月という名のエニグマが出現する。夜神月は不愉快そうに顔をしかめて言う。
「僕はキラじゃない」
「私はそうだと思っています。そして海砂さんが第二のキラだと―少なくともそうであったと」
「おまえが間違っているんだ竜崎、僕はキラではない。その式は成立しない」
「誰がそれを証明出来ますか」
「僕だ」
「では意味が無い」
そう言ってやると夜神はかなり苛立ったような顔をした。ストライプの品の良いシャツを身に着けている。それがぐしゃりと皺をつくった。
「もう、喧嘩、やめてよう」
弥が言った。
あまったるい声だ。
「ああ海砂。すまない」
夜神が弥に向ける眼差しも以前の底冷えするような光がなくなった。確かに強引なアプローチに多少うんざりはしているように思えるが。キラが第二のキラと関わりをもつなら、それは利用と云う一点に尽きるだろうしそれはあの視線に適っていたもののようにおもう。Lは苛立ちを飲み下す。「…立場は同じだろう竜崎。おまえだって証拠はない」
「あなたを信じる理由はないですが、自分を信じる理由はあります…」
Lはぎろりと月を睨みつけた。端正な顔が顎をひく。Lは心中でそれを笑う。
「わたしはあなたよりも長く生きていて、賢いですからね」


111022


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