すくすくくちる





木片が剥落してゆくゆめをみた,或はそれはサナギであつたのかも知れない。僕には何もわからないから。君はそう言う,何もかもわかっている癖に。放課後の教室はたえて色も無く息をするのをよしていた。屍体のようにだらしなく机に覆いかぶさりくすくすと,きみは雛が卵をつつくような音をだして笑う,おぞましいようでかさかさと心地好いようでもあつた,君に何を望むわけでもないが,別段厭悪しているというわけでもない(残り少ない寿命を無責任に飼い馴らして生きているだけ,それが幸福というもので,そして若いぼくらのいつもどおりの生き方だということを知っていた)。かさかさと睫毛が動く音が聞こえた。彼は泣き笑いのような顔をしてこちらを見上げていた。
「いつしょに逝こうね。」
にこりと彼は笑う。僕らは期待や望みを抱いて生きるにはあまりに死に近すぎていた。わかるのは死について。死についての約束だけ。(だれもが死を望んで生まれるわけじゃない,ただそういう運命であつたという--それだけのこと)それについてはもうとつくに諦めはついていてただ,目前に嵌然と待ち受ける未知についての不思議だけがのこつていた,だがそれもたかが相場は知れていた。
「死んでも一人だよ」
「それでもさ」
「まだ淋しいなんて感じるの」
「そうみたいだ」
力無く曖昧に彼は笑んだ。彼は友人ではない,恋人ではない,けれどもちろん,他人でもない。接吻を交わし,手を握り,話した。多分彼は--僕の周りにいた人間だつたのだ。ただそれだけで,けれどそれだけで充分だつた。人は孤独なのだと,それはずうつと前から承知していたことだつたから。
「きみと出会えて,良かつたと思うよ」
静まりかえつた教室にその声はよく響き,痛いぐらいに僕の粗末な鼓膜を揺らした。「僕もさ」
僕らは呆れるほどに一つだつた。愛だとか知らないけれど,少なくとも僕らは分かち難く離れ難く結びついていた。恐らくは神様が・・・僕らの死を決めた神様が。それはせめてもの情けなのだろうか?きみと出会えた幸せに,涙でもすべきなのであろうか,どうしてそんなことができるんだろう?
僕らはぼくらの短い生命を恨んでいた,いつだつて狂うくらいの苦しみを齎してくる自らを。愛すことなど憎しみの渦中では出来ない。僕らはだからよくお互いを罵りもした。互いの体が自分の体であるように相手を蹴つたり傷つけたりした。生きていたということを互いの体に落とし込むように。
「きみを愛していたよ」
愛など知らぬというのに。
「僕もさ」
愛など知らぬ。なぜそんな言葉が溢れるか。





110907///taitorukaranoinnsupireesyonn/sorry.




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