携帯とSBケーブル





ちょいえろ
くらい/屈折
途中できれる










何のことを指しているのか彼女は分からなかったようで少しの間バイブレーターの広告を眺めていた。そして合点がいったのか、興味を失ったのか、そんな感じで広告から目を離した。照れもしないなんて可愛くない。「欲しいのーハチちゃん買ってあげようか」「いらない」それとも数式を眺めるのと同じ目で見つめていたことに欲情すべきなのかはあはあ。こんちはSBケーブルです。
「どうなの最近カレシと?ご無沙汰してない」
「してない」
返事が冷たいのは気を許している証拠だと、思おう。「あんた胸平たいままだね」「黙れ」「やだよーん」
おれは貧乳のほうが好きだからいいんだけど。貧乳ってえろくない?

充電器よりSHとの付き合いはおれのほうが長い。なんか気取った奴来たとか思ってたらあっという間にデキてた。そういうのどうかと思う。このひと堅そうにみえて結構尻軽いから困る。痛いの好きだし、傷つけられるの抵抗ないし、頭良いから更によくわかんないし。「過保護なの好きだよね」「…」
ちいせえ胸を揉む。明後日の方に視線をやって、だけどSHはされるがままだ。監禁だって喜ぶんじゃないかなこのひと。執着されればされるだけ嬉しいっていう人だから。だってこの人自分は嫌われるのがデフォルトだって思ってる。よくわかんない。そこまで自分追い込んでたのしいのかな。それともそれがキモチイイの?かなりマゾだ。
目には隈が浮き出ている。顔いろも悪い。なんだかすごく疲れている。
音を立ててくちびるにキスをした。そのまま舌を絡ます。もう使われることのないその喉。裂いた鼓膜。哀しいくらい人として生きることを放棄してうつくしい彼はここに在る。意味無いだろう。いつか言ってやりたい、世界はあんたを否定してはいないのだと。はっちゃんを取り囲み見守るのが世界なのだと。もしかしたらあいつは知っているのかもしれない、だからずっと傍にいてやって見守っているのかもしれない、この携帯の世界がいつも優しいものであるように。
存在意義を奪われればこいつは(意味の中に住んでいるこの愚者は)一気に足場を無くすだろう。地にたたきつけられてもう何を為すこともできない。だからあいつ(と、いちおう、おれ)は奪わない。ただ見ている。ただゆっくりとその世界を底上げしてやる。そのためにおれたちがいる。

「…くだんないね」
「うん――?」
いくら間違っていようとも曲がりくねっていようとも肯定しなければいけない(それは人の究極的な矛盾)。生きているということで総ての誤謬は赦されるのか。理論的には間違っている、だからこそわたしはわたしを否定しつづけなければならない。正しい人間なぞいないよ――人間の定義だって未だ決められてはいないじゃないか。
明らかなものをわたしは尊ぶだろう、なんという心の貧しさか。
抱かれながら繰り返す証明。
「―あんた馬鹿、だよ」
「うん、」
そう罵られることは気持ち良かった。無知だ阿呆だ無価値だと…傷つけられるくらいならば総てを知ったひとに言ってもらえればいい。変態みたいだ…笑う。
頭の良いと言われるよりは馬鹿だとおとしめられた方が良い。そこならば誰にも意識されない。
非道い生き方をしていると知っている。どうしてこんなに曲がりくねってしまったのだろう。棄却すればいいのに、はずかしい。
「…すきだ、よ、ハチちゃん」
耳元でそんなことを囁く道化がいる。信じられないように思って見つめると、にこりと微笑してくちづけられた。




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