帰れない僕らのラストワルツ





※エッチしてます
集さんが女装で襲い受けです
集→宿見で長いです









誰よりも君の幸せを祈っている。だから成仏して欲しい。それが永久の別れを意味しているのだとしても。きみが死んだ時点で元より取り返しはつかなかった。汚い欲に塗れた僕など見なくていい、綺麗な青に僕など映さなくていい。その細い腕を振って逝けばいい。

「はは、」
白いワンピースに身を包んだ男が壊れたみたいに宿見のうえで笑った。その目から涙が溢れて滴り落ちて、宿見の服に沁みていった。整った顔が近づいて唇にくちづける。離れては触れ、離れてはまた合わされた。熱い涙が宿見の頬にぱらぱらと落ちた。「やどみ、」低い艶のある声で集は言い、宿見の首を締めていった。宿見の抵抗をものともせず集はそこを圧迫しつづけた。苦しくて宿見が集の手首を掴むと力が弱まる。ひゅうと喉から息の抜ける音。
集は顔を苦しげに歪ませて、宿見の首筋にくちづけを落として行った。あおいリボンの感触がかさかさという。
宿見の頬を蜜色の髪が撫ぜた。細い指が宿見のTシャツをめくりあげて腹を撫でまわす。整った唇が皮膚を噛んで鬱血跡を撒き散らしていった。「何すっ…、離せ、へんたい、」集は狂気めいた風に唇を釣り上げて言った。「おまえが殺してやりたいほど憎いよ」
集の目にうつるのは宿見の薄い腹、細い腰、実際女の服を着ている自分のほうががっしりとした体つきをしていた。幾つもの感情が集の胸を掻き乱す。焼き尽くす。
「めんまが見えるおまえが憎いよ」ずっとこうしたかった。集は宿見を好きだと思うと同時に憎まねばならなかった。「めんまに好かれているおまえが」同時に羨み、それと同時に憧れ、憧れるのと同時に蔑まなければならなかった。「高校にも行けないくせに」集はまた彼に無関心を装わなければならなかった。「おまえなんかどうだって、知ったことじゃないが」口から溢れていく言葉たちを集が制御することは堰が切れたいまはもう、不可能だった。ずっと宿見を抱きたかった、また、宿見に女(めんま)のように抱かれてみたかった。
氾濫した感情のいうままにしてみれば集は、白いワンピースで彼の上に跨がって、泣きながら喜ぶこととなった。宿見に驚愕と軽蔑の視線でに見つめられて。(そのことに更に興奮する自分は末期だ)
行き着く処は無い。だったらこんなことをするべきではない。一度体を繋げたところで何も変わるものはない。
そんな理性を嘲って、感情と性欲がぐちゃぐちゃと音を立てて何もかもを一緒くたにして掻き回し快感のゴールを探している。
はあ、はあ、獣のように浅い、はしたない呼吸。それは紛れも無く興奮のかたちを象っていた。無理矢理な行為でも、宿見はちゃんと堅くして精を吐いた。嬉しかった。
「っは、は…っ」後孔に彼のものを宛がうと喉からひどく高い声がほとばしり出た。「ああ、あっ…!」
視界にちらりと映った白いワンピースが己の白濁で汚れていて象徴的だとかんじた。「はああ、はああ」
宿見は何処か茫然として集を見、そして腰の奥に打ち付けていった。「ああっ、ああっ、あっ、やど、み…っ」気づけば彼の薄い体に縋っていた。「っは、ゆきあ、つ、あ、あ」今なら許される気がして恋人の振りをして集は唾が微かに垂れたその口元にくちづけた。一気に上りつめることが出来た。



頭の痛みで覚醒した。傍らの気配に驚いて目をやると宿見がすぐそこの床に座っていた。
果てたベッドに集は寝かせられていて、けれどシーツは取り替えられたのか不快感はない。宿見は集の中には出さなかった。そのお陰で大事にはなっていないが、尻の辺りの違和感は拭い去れなかった。額に冷えピタが貼られていた。体を見るとまだ白いワンピースに青いリボンという格好だった。「っ…」
集は屈辱に息を呑む。
下らない行為の時間は過ぎ去ったのだから、あとは即刻無かったことにするべきだった。間違いなく行うべきではなかったことだ。ずっと前からそんなことは分かっていたはずだったのに。
痛む下半身を無視して集は身を起こした。慌てたように宿見が止めた。「動くなよ」「うるさい」
自分の愚かさに虫酸が走る。股間がぐちゅぐちゅと気持ちが悪い。「シャワー借りる、」
着て来ていた、脱ぎ散らした制服を手にとって、集は宿見の部屋を出た。


ふらふらと、二本の箸が不安定に丼と空間を行き来していた。
大分見慣れてきた光景だった。だからといって胸が焦げるほどの歯痒さが変わるわけではないのだが。自分が殺したも同然の、愛しく美しい少女は間違いなくそこにいるはずなのに集には見ることも触れることもできないのだ。
そう感じるたびに集は、宿見に焼き切れる程の嫉妬を覚えた。集は動く箸から目を逸らす。それはそれで辛いことだ。
何遍も何遍も、集は頭の中で少女を想い描いては自慰をした。彼女はもう―押し倒すことだってままならないのに。想像だけしかできない自分がひどく惨めに感じられてやりきれない。
集は夢想する。
今彼女は頬を膨らませながら、熱い麺をふうふうと冷ましているに違いなかった。
ちゅるり、と愛らしい音で麺を啜ってから、意外とたくましいごくんという音をたててつゆを飲むのだろう。
宿見の視線を追えば、箸の辺りのあらぬ空間に留まっていた。宿見は愛おしそうな表情で虚空を見つめている。
(幸福なんだろう)
でもいつかそれは終わる。――いや、終わらせなければならない。本当にめんまの幸福にするために。めんまを幸福にしたいと願うならば。
そこには多少嫉妬も含まれていた。だがその焦れは実は双方向に向けられている。つまりは宿見への嫉妬そして宿見に愛されている(自分も想いを向ける)―「幽霊」への、嫉妬。幽霊に嫉妬とかどうなんだ。思惑をよそに、宿見はめんまと会話していた。「はいはい、そりゃ良かった」「はあ?いや、あ、」
二本の箸が宙を舞った。宿見の方へ、その口元に麺を載せて。(宿見が渋々といったように口をひらく)、めんまも口をつけただろう箸が、宿見の口もとに触れて、
「帰る!」宣言して集が立ち上がるとそれと同時に、ふわり、と何かが動くような気配がした。宿見が立ち上がって言う。「送るよゆきあつ」「いらない」「めんまは家で待ってろ」「ついてくんな」
何秒か睨み合ったのちに、目を逸らしたのは集が先だった。
宿見が虚空に向かって言う。
「だあから、おまえ、待ってろって!」


ちかちか、と電灯がまたたいている。月の無い夜だった。蛾が何匹も電灯の周りに群れている。しみとおるような静けさだった。
「忘れてやる」
帰り道そう口火を切ったのは集だった。二人は俯いて並んで歩いている。駅まで送ることになっていた。宿見は戸惑って集を見た。集が重ねて言う。
「無かったことにしよう」
まさかおまえ、おれと付き合う気じゃないだろう。
そう聞くと宿見は困ったように俯いた。
少し経って、宿見が問う。
「おまえはめんまがいなくなっても平気か?」
月の色をした瞳が集を見上げた。
眉を微かに寄せて集は宿見の顔を見る。苦しげに歪んでいた。「おれはだめだ、どうしても―だめだ、」彼は目を伏せる。瞳の奥が揺れていてどきりとした。集は幼少のころから彼の瞳に弱かった。
しみとおるようにしずかな夜。
「おれはあいつと出会ってしまった、」
呻くように隣の男が言う。
「好きだと思ってしまった愛しいって。ずっと傍にいてほしいって」
これは俺のエゴだ、だけどあいつは居るんだ、居るんだよ、「だったらもう失いたくなんかない…!」
宿見の目から涙があふれた。あいつを守りたい、口早に言い、集はそれに我慢できず口を開いた。
「遅いよ、だって本間はもう死んだんだ、今更おまえが守るも何もない」
「めんまは居る、ちゃんと居る、おまえ知らないだろ?あいつ…ちゃんとあったかいんだ、ちゃんと息もして、ちゃんと触れるんだ」
「おまえは俺が本間を見れもしないって分かって言ってんのか!?」
強烈な胸が爆ぜるような嫉妬だった。宿見が呆気にとられたように目をみはる。集は顔を歪めて言った。
「おれは…めんまとおまえが好きだ、」
救われなかった。男と幽霊に片想いするかわいそうな松雪集、胸のうちで自分を嘲る。
「だからあんなことしたのか?」
「ああそうだ!」
ああもう帰れないじゃないか、引き返せない、行き着く先は袋小路だと歴然としているのになぜ、足を踏み出すようなことを自分はするのだろうか。
報われるなんて思っちゃいない、青ざめる宿見に言葉を投げる。
「おまえはめんまが好きでめんまもおまえが好きなんだ―同情はいらない、憐憫も罪悪感もだ」


「だってもう帰れない」
宿見が呟いていた。
「めんまを失った昔になんて」
帰れないぼくらのラストワルツはどこまで続く。君の幸福を望めない僕らは、君を愛していないことになるのだろうか。
(想うのはただ愛おしいということ)


110803lastup//
あんまりまとまらなくてすいません


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