震災きねん





世界がばかみたいにきれいな色と光りに満ちていた。
時節は初夏。もう午後六時前なのに、陽はいまだかけがえのない静かな光りで世界を幽玄に照らし染めていた。床が華々しい明るい橙をさも心地良さそうに放って横たわる。染める、まるでしんとした世界は鮮やかに静止していた。絵のなかに、または立体的な写真のなかに紛れてしまったようだった。
淡い光りに染められた凡ての神々しいほどの美しさに、携帯電話は泣いたのだった。暗い部屋から踏み出した途端におおきく美しい世界が自分を取り巻いていて、その事象が当たり前のように在ることに限りなく感動した。
彼は―哲学者であったが詩人でもあったから。

CHが起きられましたかと問うた。SHが頷くと彼は、今日は美しい日ですと云った。そうだと頷く。隣で世界は瓦解していく最中だった、この光りは世界の果てにいる二人に特別に賜られたものであるようにおもえた。隣で破壊が行われていた、家がぐらぐらと揺れていた。
「恐いですかSH?」
彼はSHの涙をそっと拭った。誰も信じないかも知れない、だがその世界は確かにここにひろがっていた。

110721


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