溶けだす君に溺れる





みはしぃ、好きだよう。

情けなく優しげにまなじりを下げて彼は言う。そこにあるのは底抜けの優しさと、でも決してそれだけでないことも三橋は知っている。

水谷はそこそこ利己的で洒落ていて、情けなくて繊細でおくびょうだった。
優しさで掬うことをする。

「みはし」

蜂蜜みたいないろの髪と垂れたひとみが、陽に熔けてゆくようだった。
甘めの顔がふわり、と緩む。
桃色のくちびるに三橋は自分から目を閉じてくちづける。
水谷の目が一度まるくなって、ほねばった手が三橋の後頭部に宛てがわれた。


晴れた春の日の喫茶店。
二人が座る窓際のテーブルには陽光が惜し気なく降り注ぐ。

「んーなんかね幸せって感じ。へへへ」

ふ、ふ、ふ。込み上げて来るような幸福の予感。
あぶくみたいにぽつぽつと上がってくる。三橋は何となくどきりとしてなにも言えずジュースのストローに口を付ける。
こうふくという言葉は膨らむような語感をもって三橋の耳にはひびく。

あなたのまわりだけ幸福でけぶって、泣きたいくらい果敢無いようなの。
陽にとろけてなくなりそうな髪の色も肌も、綺麗さは嬉しいのに遠くに行ってしまうようでさみしい。

会いたい逢いたい、恋しい愛しい。

とろとろの蜂蜜みたいに、上質なカフェラテみたいに一度に食べてしまいたいけれどそうするにはわたしの舌は及ばなくて、経口摂取は毒にも勝る。


「――みはし?」


消えるのだと三橋はおもう。

だってそうだ、こんなに大切で貴くて自分を好いてくれるひとが、ずっと居るなんてそれこそ考えられないことだ。

その喪失すらも春の日のように甘やかならば。

消えていくのは自分だろうか水谷だろうか。
ああそれとも同系色の二人は揃って日に溶け消えゆくのだろうか。
つるり、と椅子から液体のように零れていなくなってしまえばいい。
二人だったら怖くない。

水谷の手が伸びる。ほそい腕に生えたうぶげが光を弾く。
くびを包む。ふわりと彼は笑った。

「――三橋、」

下がる眦も愛おしくて、三橋は水谷に手を伸ばす。

「いっしょに、死んじゃおうか」
彼はどこまでも三橋の好きなあの笑みを浮かべて陽の光りに染まっている。

「――はい、水谷くん」

笑みを深めて殆どもうしまりのないくらいの顔にまでなって、かれは(愛しい恋しい水谷は)よかったあ、とわらった。

三橋はゆびに、力をこめた。

夢のような午後だった。










死のような幸福




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