携帯と充電器さん





腹具合がおかしいとSHが言い出したのは事の後だった。彼はCHの腹に小さな頭をのせて横たわっていた。恋人はなんでも溜め込む傾向があって(というか、それしか知らないんだろう)、抱いてやるといつも悦んで鳴く。性別を棄却した彼がそのときだけは女のようで、CHはいつも興奮するのだ。
それはそうとして、SHはお腹が変、と言って隈の濃い目でこちらを見上げた。
常の張り詰めた表情が何となく落ち着いた余裕のあるものに変わっていて、それだけでchargerは嬉しいと思う。(あなただけの忠実なしもべ)
「そりゃあんなに掻き混ぜましたらねえ」
彼のなかは心地好かった。狭くて柔らかくてぬるぬるしていた。感度も良いし、そもそも体のかたちがうつくしいのだ。かみさまに特別に手をかけて造られたように。
彼は日常それを全て放棄して、専ら頭の中に棲んでいるのだが。
勿体ないことだと思う。その反面、贅沢に暮らす恋人がCHはとても気に入っていた。(僕だけのとても特別な人)
「お腹があ、」
どんどんするう…、SHはそう言った。時候は大分暑くなっていて、二人で下着だけで寝転んでいても全く差し支えが無かった。
突かれた感触がまだ残っているのだろうか。CHはぼんやりと思う。美しい肉の色合いを思い出して。
彼はとても外界からの刺激に弱い。だからこそ頭の中に逃避することを望むのかもしれない。CHには分からない。
ふと、彼の黒い髪が大分伸びてきたように思った。
「髪伸びましたね」
「…そうかも」
「前切ったのいつでした?」
「…5月かな…」
「またそろそろ切りましょうね」
「うん」
些細なことだ。放っておけばどこまでも果てを追いかけつづける恋人が、現実に還るためのCHは窓口だった。
着たきり雀の烏の行水の、浮世離れした、繊細で聡明な―何よりも哀しい鷹。
ふたりは永久に離れることはないのだと、CHは本能にちかい場所で諒解していた。少なくともSHはCHから逃れられまい。CHが居なければ、彼は破綻してしまうのだから。
「―CH、おなかごろごろする…」
「お腹張ってますよSH…便秘でしょ?」
「…」
「出してきたらどうです、あんたはほんとになんでも溜め込むんだから」
「…」
SHは返事をしなかった。
「それともまだ足りないですか」
尋ねながら平たい胸に噛み付いてCHは言う。
「じゃあもうちょっと、刺激してみますか?」
見つめたSHの目が期待していた。(一度覚えた欲求にはまるで忠実かつ貪欲)(ひどく欲汚いあなた)(一見ひどく、清貧そうな生き方)
(、ぞくぞくする)
(でもそれをみせるのは僕だけにして)






20110709#


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