死んだ魚のような目をした男は今だって鼻をほじって出てきた鼻糞をどこかにはっとばしながら今週号のジャンプをソファーに寝ころがって熟読している。その不動明王のような姿はもう見慣れたものになっているけれども、かといってそのだらしのなさに呆れる気持ちを失くしたわけではない。向かいのソファーで神楽ちゃんは抜けるような白い肌に大きな碧い目、チャイナドレスのよく似合うすらりとした体、全てを大変潔く投げ出して虚空を見つめながらくっちゃくっちゃ酸昆布を喰らっている。
見かねた新八は洗濯物を抱えて少女に声をかけた。
「神楽ちゃんもうちょっと静かに食べない」
「うるさいネ眼鏡置き」
「誰がだよ、というか朝ごはんに酸昆布っていうのもどうかと俺は思うけどね!?」
「黙れアル眼鏡置き」
この花弁のような唇からかくのごとき悪口雑言飛び出すのは何となく自然界の掟に反することにすら思えて新八はため息をつく。もう慣れたとも言えるけれど。
「で、あんたに至っては朝ごはん食べてないじゃないですか」
この糖尿病予備軍は朝一でジャンプを買いに行きそれからは単語帳と向かい合う受験生のような勢いで漫画を熟読している。これぞマダオだ。
「んだようるせーほっとけ眼鏡置き」
「ていうかあんた顔も洗ってないだろ」
「うるせーようるせーようるせえんだよ」
その間も濁りきった目はジャンプの誌面の上だ。そんなに今週号は面白いのか。新八は洗濯物を干していく。ぱんぱんと広げて、ほのかな洗剤の匂いをかぎながら、あるものはハンガーにかけ、あるものは洗濯バサミにとめていく。定春がくわあと大きな欠伸をした。
万事屋の日常風景である。

ひじかたアアアアア!
さらさらとした明るい色の髪と見とれるばかりの端正な面差しからそのどうしようもない中身を窺い知る術はない。新撰組一番隊長沖田総悟は今日も元気に副長の座を狙っておりますまる。副長は副長でご飯とカレイとみそ汁と納豆という質素な朝食をまるで親の仇というようにマヨネーズで染め上げていた。顔は完璧な無表情だから余計に行為の異様さが際立つ。
あの人のマヨラーぶりはどこまでいくのだろう。死ぬときもマヨ葬だろうか。うえ想像したくない。思わずこみあがる吐き気を山崎退は口をおさえてやり過ごす。丁度沖田が戸を蹴倒して食堂に乱入してきた。愛刀を振りかざし一直線に土方目指し駆ける。うおおおっ。土方もすらりと腰のものを抜き相対した。ガッッッ!
「朝っぱらからうるせえなあメシくらい静かに食わせろ」
「あんたのそれはメシですらねえやイ土方さん。毎日そんな犬のエサでよく飽きないですね」
「マヨは味覚の革命だこの野郎オ!」
ぎりぎりと白刃が火花を散らす。隊士たちは馴れたもので歯牙にもかけず。各々の食事を続けている。山崎退はため息を漏らす。いつも止めるのは俺なんだからな。参っちゃうなあ。パクパクと朝食を胃におさめて立ち上がり、山崎は二人の間に割って入った。こんな芸当が出来るのは山崎退くらいのものである。
「はいはい今日はもうやめ」
じろりと沖田が睨みあげる。
「んだとジミーの癖に。すっこんであんパン食ってろィ」
「いや僕もそうしたいのは山々ですけど、このままじゃまた始末書が増えますし、後始末も増えますし、食事時間は減りますし」
そう言い山崎が笑う。侮れないのはこの殺気のなさ。垂れ目を更に崩し笑えばまるで童子のようである。その表情のままに彼はばさりと人を斬るのだ。にこにこと笑いながら、温厚で目立たない雰囲気を一分も変えることはなく。
「だそうだ。沖田刀を下ろせ」
土方が静かに促すと、沖田は珍しく素直に従った。



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