ようちえん


あまりにも更新が無いのが申し訳ないので
かなり前に書いた幼稚園パロ
途中できれます…

1.

今日はお花の絵を描きます。いちばん上手いのは修ちゃんです。修ちゃんはだれよりも力持ちで乱暴もののがき大将ですがお絵描きが大好きなのです。
でもドッヂボールだって、缶蹴りだって修ちゃんがいないとつまりません。だから本当はみんな、お絵描きをしている修ちゃんはあまり好きではないんです。だけど修ちゃんを怒らせてはいけないので、修ちゃんが絵を描いているとき、みんなはそうっとしています。それがおに組の――中禅寺先生のいう難しい言葉を借りれば――「不文律」でした。

「えのきづれいじろうです。よろしく」
ある日、男の子が一人、おに組に入って来ることになりました。栗色の髪と目をした、まるで女の子みたいな男の子でした。外国人なのかなあ?その子の肌はまるで透けるように白くて、そうみんなが思ったのも無理はないことでした。男の子はちゃんと日本語を喋っていたのですが、みための異質さというのはなかなか解消しがたいものです。一度、しん、となってしまったお部屋の雰囲気に、異人みたいなその男の子はびっくりしたようでした。修ちゃんはというとそのとき、居眠りをしていました――というのは天気のいい日でしたから。ぽかぽかした陽気は、遅くまで起きて職人さんの仕事を見ていた修ちゃんにはうってつけだったのですね。というわけで、修ちゃんの目が覚めたとき、男の子――れいじろう君は先生に連れられて、幼稚園じゅうを見ている最中でした。転入生が来たことなどつゆ知らぬ修ちゃんはそして――いつものとおり青木君の頭を叩きました。
ぽかり。
「いたっ」
「今日はなにすんだ?」
青木くんはすこし目を潤ませながら、それでもちゃんと教えてあげます。青木くんは乱暴者の、でも優しい修ちゃんを、ほんとは尊敬しているのです。
「今日はおはなの絵を描くんだって」
「花かよ。つっまんねえなあ」
「きばさんは絵描くの好きじゃん」
「う、うるっせえよばかやろう」
ぽかり。
理不尽です。青木くんは頭をさすりながら再び前を向きました。修ちゃん流の照れ隠しだと、ちゃあんとわかっているのですけど。
変な修ちゃんです。



みんなはお外に行きました。お部屋のなかにあるお花といえば、花瓶にあるしおれたものくらいだからです。花壇に生えたお花のほうがきれいだとみんな思ったのですね。先生も修ちゃんに外に行って花壇のお花を描いたらどうかと勧めましたが修ちゃんは嫌だと言いました。
「どうしてかね」
中禅寺先生の顔は怖いです。実際たくさんの子供が泣きます。ためらわず刃向かえるのは修ちゃんを含めてもあまり多くはありません。妹のあつこ先生のほうが人気があります。
でもふたりとも、良い先生です。理由を話せば分かってくれる二人です。
「みんながきれいなほうばっか行っちゃってさ、これはもうきれいじゃないからいらないって、かわいそうじゃねえか。だからおれはこっちのはなを描いてやるんだい」
すると中禅寺先生は珍しく声をあげて笑いました。
「君らしい」
そうしてくしゃりと頭を撫でるものですから、修ちゃんは急いで飛びのきました。
「う、うるせえやい」
「それはすまない。お邪魔だったね。心置きなく描いてくれたまえ」
なぜかいつも和服の中禅寺先生はそう言って、ふらふらと部屋を出て行きました。中禅寺先生の青白い顔を見ていると、修ちゃんはいつもあいつ病気なんじゃねえのかと思います。勿論それを口にだして言うことは、とてもできない修ちゃんです。


さて。
中禅寺先生が出て行って、そうして修ちゃんんが絵に集中し始めて、三十分ほど経ったでしょうか。花瓶の紫のお花はやっぱりどうも萎れていて、あまり描きがいという描きがいはなかったのですけれども――意地ぱりの天の邪鬼な修ちゃんがそれを認めるものでしょうか。いいえ、そんなはずはありませんね。と、いうわけで修ちゃんは一人で、日差しの当たるお部屋で黙々と写生を続けておりました。
礼二郎くんはその時――といっても修ちゃんがそれを知る由はないのですけど――、先生とのお話を終えて、皆のお部屋に戻る最中でした。
――礼二郎お坊ちゃまに、くれぐれも粗相の無いようにお願いしますよ。特に怪我とか、何とか…とにかく御前様の寄付金です。欲しいのでしたら気をつけてください。
礼二郎君にはよく分からない言葉が、小さな頭の中でぐるぐると巡ります。
自分を見た大人の人たちはまず、ぎょっとしたような表情を浮かべます。そのあとには、大抵は笑顔になるのですけど、礼二郎君はその最初の表情をみるのが嫌でした。なので最近は、わざと違う方向を向いていたり、たまには、わざともっとびっくりさせるようなことをしたりもします。
新しく貰った上履きは、廊下を歩く度に音がたちます。キュッキュッ、キュッ。その音はなんだか耳障りなのですが、幾ら礼二郎君が抜き足差し足をしても、無くなることはありません。初めて着たスモッグはごわごわするし、前もって誰かが名前を書いてくれている名札だって、れいじろうのいの字が、ちょっと歪んでいる気がします。外からはきゃっきゃっという、はしゃぎ声や、お遊戯の音楽が聞こえるのに、廊下は全くしんとしていて、礼二郎くんの廻りには誰も居ないのでした。
教えられた教室はおにぐみでした。大きなドアです。耳を澄ましてみても、何の物音もきこえません。
礼二郎くんは、おにぐみのドアを開けました。




児童文学風に




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