青益ただのえろ


 恋が口からあふれてくるしかった。

 何週間ぶりの逢瀬だろうと、益田が、下宿の部屋の鍵を開けるのを横目で見ながら考えていた。
 細い躰が、扉をくぐって暗い部屋に入っていった瞬間、青木文蔵のヒューズは飛んだ。部屋はくらく、せまく、そこは密室で、世界から何のかかわりも受けない場所で。彼が普段生活する、濃密な気配の残る場所だ。彼の中で彼を抱く。圧迫されてしまう。
 あいと、こいと、欲と、そうして未消化の総ての物がどろどろと青木の股間をたちあげにかかる。


「っん…あっ、」
 何歩か歩けばすぐにたどりつく布団を前に、廊下に押し倒されてどんな気持ちなのだろう。相手の体をむさぼる、なんて、官能小説のいち表現でしかないと思っていた。それなのに、この、行為は、貪るという形容の他に適切な言葉を思いつかない。
 猛烈に乾き飢えているものがあり、その欲望の蛇口は彼にしかひねれないのだ。
 何ということだろう。
 彼しか、いないのだ。
「益田、くん…」
 ネクタイを無理やり緩め、取り去らぬままシャツをはだけさせて、夢中でその肌の感触を確かめた。胸から腹。ちくび、わき腹、へそ、背中。腰、おなじ男の肌であるのに、それはやはり彼のものでしかない肌だった。青木より白く、青木よりやわらかい。生まれつきのものなのだろう。
「どうしたんですか、青木さ…」なんか今日おかしくないですか?
 そう戸惑う風に言うくせに、そのくせその細い手は青木の服をまさぐっているのだから、お互い様だ。
 いやらしくて眩暈がする。
「やらしいよ、益田くん」
「それ、お互いさ…はぁ、んっ!」
 生意気なことを言う口を黙らせる為に熟れた乳首を青木ははんだ。ぷっくりと膨らんだその心地が気持ちいい。びくんと痩躯がいやらしくしなって、細い腕は抱き寄せるようにそっと青木の背に回った。
「っ…きもち、い」
「乳首で感じるなんて本当ヘンタイだね、益田、くんは」
「っ…ぅ、っぁ、」
はあ、満足そうにこぼす吐息がなんともいえず熱っぽい。やだあ、そういう声はすっかりもう甘くなりかけていた。
「かわい」
「っ…るさ、」
 耳元でささやけば、滅多に聞けないふて腐れたような声が返ってくる。こういうの何だっけ。鳥口くんに聞いたな…つん、だっけ? すっかりのぼせた頭で思考を転がしながら、青木は益田をゆっくりとあたまから食べにかかる。
 あたまから、たべる。


 とけた顔と声はすっかりあまくて、自分はもうその中毒になりかけているのだと青木は思う。
定期的に摂取しなけれぱ、いきていけない。
乱れた黒髪、涙まみれの顔、薄く開いた口、のぞくやえば、紅くいろづいたほおとくちびる。飄々とした体をいいだけ取り繕って、こうやって浮かされる場所など見せないからこそ、特別なものを見せられているような気がした。
「はうう…、」
 くちからこぼれるかわいい涎を指で拭って、ついでに口に差しいれた。唇がきゅぅと吸い付く。うすいくちびるは意外とやわらかくて気持ちがいい。とろけた顔で懸命に吸い付く様はかわいいけれど、馴れたように誘う上目づかいがいやらしかった。
「ぼく、あおき、さ…」
 ろれつがまわりきっていない口が愛しい。饒舌な彼だからこそ、それが崩れる瞬間が好きだ。いつもは大抵握られる主導権を、青木だけが握ることになる、この占有感。
「どうしたの」
「んん、…、」
 乞うように股間におよがされる視線が好きだ。もどかしげに尖らされるくちびるが色っぽい。じらすようにさまよう手が扇情的だ。
「ぼくだけ、脱がされて…ずるい」
 益田の言葉に青木はふと自分たちを俯瞰した。玄関から三四歩で押し倒されて、廊下の上で、シャツを腕まで脱がされ、ベルトが外され、ずぼんが腿あたりまで下げられている益田に比して、青木はまだほとんど服を乱していなかった。
「はずかしいですよ、こんなの」
「はずかしい、ね」
リップ音をひびかせて口づけをひとつ落として、
「君すきだろ、はずかしいの」
 そう続ければ、さっと紅潮する彼の頬と、耳が、好きだと思う。
「君が、好きだよますだくん」
「―ぅ…」
 微弱な電流が走ったみたいにふるっと震える体がいとしいと思う。
「っ…僕ばっか…」
「え?」
 ずるり。
快感でうまく力が入らない益田が青木の胸板を押して、緩慢に青木の上に乗る。 青木の足の上に被さって、益田がうるんだ眼でこちらをじっと見ている。
「な、に? ますだくん」
「ぁ――」
 ぱすん、軽い音がして、胸の上に益田の顔がのった。なんとなく腕を益田の腰に回して、撫でる。
「っ…あおきさんって…」益田の、持ち上げた顔が至近距離だ。
「なに」
「むっつりですよね…意外と…」
「君は?」
「……」
 はだけた肩と胸を見せながら、益田は少しふてくされた顔をした。してから、ふん、と鼻を鳴らして、
「どうせはっきりです!」
「ははっ」
 うん。えっちだもんね、益田君。尻を撫でながら言えば、ふっと彼の伏せた瞼は気持ちよさそうに震えた。
「だから言いますけど…」
「え?」
「っあっ、やっ!」
 指を滑らせて、穴に沈めると、益田は言葉をとぎらせてびくっと体中で反応した。ぱさ、と髪が乱れる。
「ちょっ、あおきさ、今それや、っぁはあ、」
「やなの?」
「ッ…っじゃないです、けど、ちょっと、待っ…」
 はぁ、はぁ、はあ、口からもれる息の、いろづく音がいろっぽくて、それはどうしようもなく青木の理性を追い詰める。 
「なに?」
「っん…」
 乱れた髪と。まっかなくちびると。うるんだ眼と。白い肌ととがった乳首と。細い指がついと青木の首元を覆うシャツとネクタイに触れた。ふるえる唇が、かぼそく、とろけた声をだした。
「…あ、」
 ――あおきさんも、脱い、で…

「ッ…ごめん」
「っあ、っあっ!?」
爆ぜた胸の奥の衝動のまま、青木は突き立てる指を増やした。ぅうぁ、あっあっ、あっ、ねだるような媚びるような、そんな甘い益田の嬌声が直接みみに入ってくる。
「それ反則だろ、」
「っ…え、え?、あっやだそこやぁ、あッ、っあ」
いいだけ甘くとろけた、いやらしい声が聞きたかった。気持ち良さそうに崩れるかお、とろがおとかいうんだろうか。
だれにも恥ずかしくて見せられないくらいの痴体を占有してしまいたい。あるのは狂暴なぐらいの欲で、もはや性欲か食欲かの区別も曖昧に、ただ腹の中で撹拌されていくようだった。黒い前髪が白い肌につややかで青木はそこに口づける。
こんなに興奮するなんておかしいと思うくらい、痩せた男の、きゃしゃな肢体に勃起している自分がいた。
「っ青木さッ―…、」
「うん、」
殆ど触れていないそこが立ち上がっているのは彼も同様で、青木は何となく安堵する。性急に抜き差しする速度を速めれば、益田は身をのけぞらせて、泣き声と紙一重の声をあげた。
「いい格好、」
「っ青木さんのばかぁ…」「うんうん、」
細い腕が力無く青木の胸板あたりに乗せられていた。ネクタイを解こうとして脱力した名残が見える。
真っ赤な目尻で見上げて来る彼がいとしい。
なんだか今日は酷くいじめたくなってしまう。
「そんなに服脱がせたいの?」
「っぁ―だって、…触れないじゃないですか…」
快感でうまい具合に蕩けた頭が、普段はしまい込まれる本音を口にのぼらせたようだ。
「ぼく、だって…青木さんのはだ、か見たいし…さ、さわり、たい、ですよ、ォ…」
「えっち、だなぁ」
休ませていた指を再び動かせば益田は、ぎうっと目をつむる。
「っあ、ぁん、っ、だって、は、ぁ、あ、」
「なあに?」
「えっちなことしてるんだから当たり前じゃないですかァ…」
すっと伸びてきた腕が、器用にも対面から、青木のネクタイを解こうとしている。青木は言えたご褒美にと、再び指の速度を緩めた。益田の顔が近づいてきて、青木は半開きの唇とキスを交わす。
「じゃあ、益田くんが脱がせて?」
はあ、はあ、はあ、欲情した吐息が耳に毒だ。
益田の指先がたどたどしく自分のネクタイを外すのを青木は眺める。ぼんやりと、いやらしいことをしているなと思う。

脱がし終えた直後に抱き着いてきた益田に高揚して、下は前をくつろがせただけでやってしまったのは別の話しで、ある。





130330

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 あおきさんも脱い、で… に全力で萌えた結果です

青木さま言葉責め似合い過ぎい




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