とろけるチーズで夜を彩ろう


とろけるチーズで夜を彩ろう/優しいあなたが唱えたちちんぷいぷい
中益クリスマスファンタジーもの星喰的な ほのぼの


※何か凄い
ワールド炸裂です
何でも許せる方向け


星のソテー、甘い星と辛い星に胡椒をかけてほうれん草と炒める。星はちくちくしてピリピリするけどおいしい。何よりそこらへんにいっぱいあるから便利だ。小腹が空いた時にちょいともぎとって拝借なんてこともできる。味もついているし。工夫次第でなんにでもなる。例えばジューサーでだーーっとやればあまい星の酒の出来上がり。かたちも星であるからには星型なので可愛いのである。あしからず。
星は便利だ。バターにもなるし明かりにもなるし暖房にもなる。この星に生まれて二十数年の世過ぎになる。小さな小さな星だ。二十分あればぐるりと一周することができてしまう。益田は此処にばらの花として不時着して咲いたけれど、今は完全にニ足歩行型自律的循環独立存在として機能を保っている。理窟はしらない。中禅寺は物知りで(何たって一日中本を読んでいる)頭も良いが、なぜ君がきたのかだけはわからんねと云っている。益田は別にたまたまだろうと思っている。どうだってよかった、大事なのは今此処に、二人で生きているということでそれ以外どんな奇跡だって褪せてしまう。
最寄りの一番星までは銀河鉄道で十分。または日に四度の天の川号で亙って二十分。一番星とはつまり繁華街である。なぜ一番星が明るいか知っているだろうか。いっぱい建物やビルがあっていっぱい電気が使われているからなのである。益田はよく買物に行く。流れてきたものを還してやったり(塵星迷い星、はぐれ魚[バナナフイッシュ]、星遊回魚、宇宙ねこ――ただし最後の宇宙ねこの一匹は中禅寺が気に入ったみたいなので還していない。知らないうちにざくろという名前をつけていた。益田の買い物リストにはキャットフードが加わった)、ピアノを弾いたり花を植えたり、たまに天の川の方で釣りをしに行ったりしている。中禅寺の気が向けば星雲図書館まで一緒に行くこともある。大抵やっていることは日々の雑用で、最近は探偵事務所でバイトを始めた。それはまあ別の話である。テッラ・ストアのコメは美味しい。大体の食べ物はやっぱり火星なんかよりはテッラのほうが旨い。流石は惑星内自給率百パーセントを誇る星である。

ご飯ですよと呼べば中禅寺は下に降りてきた。この人がほとんど動きもしないくせに痩せぎすなのは一体どういう理屈なのかと思う。益田の料理が悪くて下痢でもするんだろうかと疑ったときもあったが特段そういうわけでもないらしかった。きっと食った分を頭で消費するんだろう。デスノのLみたいに。
「あしたは」クリスマスらしいな。彼はご飯を食べながら言った。益田はちょっときょとんとする。
「クリスマス?」
「…テッラの習慣だ。厳格には特定の宗教の神の御子の降誕祭らしいが、癒着して年中行事の一つになっている国もあるみたいだよ」
「神様のこども、が生まれた日なんですか?」それはまた―大層な日であるとおもう。益田の勤めている探偵事務所には、己を神と自称する傍若無人がいるが、アレとは多分格が違うだろう。何せ恐らくは真正の、生きとし生けるものをお創りになりたもうた全知全能の神であるのだろうから。
「ああ」
「どんなことをするんです?」
「…モミの樹を飾り付けたり、パーティーを開いてケーキを食べたり、赤い服の老人が、子供達にプレゼントを配り歩いたりするらしい」
「もみ?けえき?あ、あかいふく?」
益田の頭の中はいちどきに混乱してしまう。赤い服の老人とか普通に怖くないだろうか。まさか吐血が付着しているのか。そんなのがくれるプレゼントなど鎌くらいしか入ってないような気がする。それは子供達トラウマものだ
「ジェ、ジェイソン的な?」
中禅寺はにこりともせずに言った。
「君はキリストを知らないで十三日の金曜日を知っているのかね」
「まあそこはそれですよ」
で。
「けえきってなんすか?」




全く以て意味が。意味が判らない。益田はもはや半泣きである。
別に料理がものすごい得意というわけでもないが。
ものすごく下手というわけでもないはずなのに。
何でレンジが爆発したのか。
煤だらけでぽかんとキッチンに立つ姿は馬鹿そのものだと思う。思うけど。
益田は手にはめた調理用の分厚いミトンをみる。
いつも結んでいる褪せた緑のエプロンを見る。
最後にキッチンの床じゅうに散らばる星の残骸をみる。ちっちゃい星である。益田はかがんで、すっかり焦げてしまった星を一つ、つまみあげた。可哀相だと思う。こんなに焦げちゃったら。益田だったら泣く。だって目立つもの。遊ぶときに仲間外れにされてしまうかもしれない。ゴメンね。そう言ってみる。星は気絶していてにこりともしてくれない。ますだのバカー。目を覚ましたらそう言われそうだ。
おいしいものを食べさせてあげたかったのだけど。
無理そうだ。
じわっと目頭が熱くなる。
中禅寺は今は留守だ。珍しい本を見に遠くの知り合いの人の処にまで出掛けている。銀河鉄道で三時間というのだから大旅だ。
益田はとりあえず別につくっていたクリームを手にとった。砂糖を足して掻き混ぜるだけだからこちらは厭でも上手くいく。
あの人甘いもの好きだもんな。怖い顔して。
固まったクリームをやけくそぎみにびよんと伸ばして遊ぶ。遊びながら益田は、前髪の長い痩躯の元ばらニ足歩行型自律的循環独立存在は、どうしようかと思う。

中禅寺は外套を脱いだ。もう夜なのに、家の中が真っ暗なのが不審だと彼は思う。思って、そんなのは益田が来る以前は普通のことだったと思い返した。
以前は、腹が減ったら飯を食って。眠くなったら蒲団をのべて。ずっと本ばかり読んでいたように思う。妻となるような女性と逢えていたならばまた違っていたのだろうけれど。
マフラーを外して、外套を吊し中禅寺は奥へと向かう。キッチンの電気を点けた。
「――益田君」
頬に涙の後をくっつけた益田が床の上に丸まって寝ていた。脇に柘榴まで寝ていて、中禅寺は図らずも少し、和んだ。和んでから、足の踏み場もないほど星のひしめき合う床に気づく。煤だらけのレンジに気づく。からっぽのボールと柘榴の口の回りの白髭に気づく。
「―――」
暗闇で焼け焦げた星たちがいやにきらきら光る。近づいて益田の上にかがみ、細い肩を揺すった。
「―ん」
「―益田くん」
「―…中禅寺さ…」
お帰りなさい。
寝ぼけた顔でへらりと笑顔を浮かばせる。暗闇の中に青白い光を受けて、細面がほんのりと照らされる。
「ああ」
「え」
切れ長のめがくっと大きくなった。そのまま手が伸びてきて、ぺたっと頬を触られる。
「か」
帰ってきちゃったんですかあぁ中禅寺さん。
泣き声が滲む。泣くようなことかと頬を触られながら中禅寺は思う。泣くようなことか。
「…柘榴は、」
クリームが気に入ったようだね。言えばバッと中禅寺のばらは振り返って、そうしてああだのううだのと奇声をひり出した。
そのまま益田はがっくりとうなだれた。床に腕をつく。伸びてきた前髪が一層惨めさを誘う。
「…また今度つくってくれればいいさ」「…ダメです」「なぜかね?」「だって!」聖夜は今日じゃないですか!
益田のそんな悲痛に割れた声は初めて耳にするもので中禅寺は驚く。驚きながらとりあえず益田の頭を撫でた。ピクンと細い肩が動く。表情は髪に阻まれてうかがえない。
「……」
星の薄暗い光に照らされた。
「……何で爆発したのか僕ァわかんないです」「…そりゃあ一等星をチンしたらそうなるだろう」「えっ」
一等星だったんですか。…そうですか…。
いつもなら剽軽にごまかす益田の落ち込んだ声が愉快だと思った。


何か夕食を食おうにも、冷蔵庫の中にはとろけるチーズしか入っていなかった。「大穴ですね」
「そうだな」
物凄い勢いで馬鹿になっている気がした、でもそれもわるくはないと思う。外を眺める。やけに暗いと思ったら益田のせいだったらしい、得心がいった。一等星を奪われた夜空は昏い。
中禅寺はチーズを掴む。
「なっ何、するんすか?」
「…」
ガスこんろの前にたつ中禅寺の後ろから益田が肩越しに覗き込む。柘榴も再び目が覚めたのか、盛んに尾を降りながら、益田と中禅寺の足に絡む。パタパタと揺れる尾が益田の薄い尻の間に幻視出来そうで中禅寺は少しおかしい。鍋にチーズを入れて溶かす。
「還さなきゃならないだろう」
「星をですか?でもどうやって?」
「僕を何だと心得ている」「え」
チーズはすぐに溶けた。器に移して中禅寺は外に出る。本好きの本屋くらいしか思い当たらない益田も柘榴を抱えて古書肆を追う。
二人と一匹は暗い夜空に立ちすくんだ。寒い。厳かな口調で中禅寺がとなえた。
――ちちんぷいぷい。
ぶっ。
益田は思わず吹き出して顔を逸らす。がその瞬間、ぶわりと発光する大きな柱が、中禅寺の抱えた器から立ち昇った。柘榴がフウウッと一気に全身の毛を逆立てる。
「ッ―…!」
轟々と光が空へ還っていく。あまりにまばゆくきらめく白光に益田は目の上に腕をかざす。おおきなおおきな光だった。一瞬世界は昼のように明るくなる。ますだと中禅寺の棲むちいさな惑星は光る。



そうやって光は空に還った。とろけるチーズは星になったと言い換えるべきか。
中禅寺と益田と柘榴は暫く、天の川が三つばかり増えた星空を眺めていた。
来年は頼むよと中禅寺が言い益田は再度驚く羽目になった。
「えっクリスマスって毎年あるんですか!?」
「あるさ」
「まじすか」
「まじだ」
だって神様の子供なんだからそんないっぱい生まれたら大変だと益田は思う。何か百年に一回とかそういうイベントだと思っていた。「毎年あるんですか…」
どっと疲れた。
「ああ」
あるさ。
いつもどおり、むっつりとした表情で中禅寺が言う。
「―…じゃあせめて来年まで一緒にいましょうね」
柘榴を撫でながら益田は呟く。来年も再来年も百年先もいるだろうさ、中禅寺は云ってふらりと歩き出した。
「えっちょっとどこいくんですか?」
益田は焦って声をかける。無愛想な後ろ姿が応じた。
「蕎麦でも喰いに行く」
「僕も行きますっ」
柘榴も抱えて走り出した益田は、後ろから、ひととびに優しいまほうつかいに抱き着いた。



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おだいは
rrgyさんからでした
見た途端にこういうストーリーが湧いたので
書き終えられてほんとよっよかった…たぶん二ヶ月くらいかかった

crooner!に来てくださる皆さんがいいお年をむかえられますように




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