雨ふらし
※書きかけ
日だまりが似合うあなたにも あめは、ふる
泪
置いて行かないで
きたない自分と きれいな貴方と
私はまだ雨を呼んでしまう
愛しているわ
崇拝と憧憬と畏怖を ごたまぜに投げ込んだような感情にいつしか色彩はつきはじめ、彼は僕の世界の凡てを、嗄らし涸らす様に為りました、それは…所謂哀、瞹藍いえ、穢であったとおもっています、おもうことは重うことです、人を想うことは、人をこころに重く沈ませるということ、ゆくゆくは鎮めることにもなるのでしょうか。僕には解りません、判ろうとも思えない、だって― 青年は眩しそうな目つきで黒衣の男をながめた。苦虫を噛み潰したかの様な顔のこの男を、青年は存外と信頼して居た。往くすえをみるのはあんまりに、あまりにつらいでしょう―ことばはいつ貴方をうらぎるか、知れない。 秋彦はまた珍しくそんな青年を、遠くを見るような目でみつめていた。膝のうえに載せた黒猫はうつくしいにおいがした。肉薄する真実はあんまりきれいだったから、どこか遠い気持ちがした。 「泣いてくれるのか」 きみは。 きづいたように秋彦は云った。青年は 「こっぴどく泣きますよ」と既に泪ぐみ乍、云った。
私はまだ雨をよんでしまう
探偵社の午后は彩褪せるということがない、あんまり美しい風景なものだから、青年は其処に居るコトをいつも躊躇って仕舞う。鞭だって存在の残滓なのに、それすらいとしく想えた。 ぼんやりと独りソフアに坐り益田は想う、蜜色の王国は絢に浮く、哀しいぐらいに好きだ。 此処に居るのは過ちでありそして、過失だったと思っている、そしておもうのにかかわらず益田はここに居たかった、出て行きたくは無かった。 (此処にいると気持ちがいいから、) 気持ちが、いいから。 誰だって黄金色の日だまりはすきだ、違うだろうか、あなたといると気持ちがよかった、あなたの王国は、痩躯の卑怯ものをせつないくらいに甘えさせる性のものだった、(気持ちいい)雨に濡れてばかりの益田におひさまは、哀しいほどに、うれしかった。
とっさに黒猫が寝ているのかと思った。違った、ソフアに横にした躯を預けてねているのは益田であった。ますだ、 上着をその反対のソフアにかけながら探偵は想う、 ますだ。 覚えて仕舞う、溺れて仕舞う、榎木津は確かに正しい人間だった、存在が染みつくことは好きではなかった、だって一人を除き誰も榎木津を離してみんないってしまうから。 ――それはな榎さん。あんたが離していくんだよ。 頭の中で例外が小言を零している、同じことだと榎木津はおもう、同じこと、おなじことだ。 ソフアに歩み寄り顔を見た。前髪が額に貼りついていた。顔を更に近づけた。榎木津の髪が益田の鼻にまで垂れる。 「どうしておまえは離れていかないんだろうな」 痩せた躯なんか直ぐに折れて仕舞う癖に。それとも織れると云うのか、おまえに。―おまえに?
好い匂いを嗅いだ気がして目が醒めた。デスクに足をのせて榎木津が坐っていた、起きたか、ばかおろか、いつもより甘いひびきがしたものだからなんだかうれしくて仕方なかった、素直に、好いにおいをかいだ気がして、と云ったら、彼は少し目を見開いて、けれど何も云わなかった。 レーゾンデートルに近い、だってねえ解っているんですか、神がなければ、居ないんですよ、下僕なんて、そういうことをあなたは云っていたんですよ、解ってらっしゃらないでしょう、ねえ、それを口に出すなんて到底出来ないけれどそれでも、心の中でさえいいんですそれで、よわくわらう自分を益田は知って、居る、或いは、あるいは哀しいことかもしれない、けれどよかった、それでよかった。指先をすり抜けていくようなそれ(隠喩)、うつくしかった、益田は偶然にも指先を零すことは得意としている、それを啓示とするか偶然とするかは未だに正しい判断ができなかった。凡てが意味をもつこともあれば、もたないことも、あるのだろう、出逢いは一体どちらだったのだろう、どちらになるんだろ、 薄く笑みを零して想う。想うのは榎木津のこと、そればかりは違いあるまい。
1110-- 121119 永日百夜よりは前に書いたもの 雨が神様の泪なら、榎は 益の前で泣くことができるのかな
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