途中で挫折したパラレル二本


*わが愛しの

※未来のパラレル 中益
※なんかもう言い訳できない 益田はケータイ 
自分が何に対して萌えているのかよくわからなくなった産物


“そのとき”周りの知人には随分驚かれたものだ。君もついに持つようになったのかと、多くの者が目を見張って、中禅寺の傍らに立つそれを眺めた。そんなとき、中禅寺秋彦は何も好きで買ったんじゃないと言い返すことにしていた。すると大抵の奴は苦笑して、まあ君は出無精だからな、あまり必要なものでもないのかな、そんなふうにつぶやき、再びしげしげと傍らのそれを眺めながら、しかし男性モデルのくせに何だかずいぶん細いな、荷物もちには向かなそうだぜ、と言った。
「安かったんだ、それに今は大抵の本はデータ処理して持ち運べるだろう」
「ああそうか、君のもつ重いものといえば本くらいだものな」
そんな主人と見知らぬ大人とのやりとりを、まだ購入して日の浅い携帯電話は、不安げに視線をさ迷わせて聞いていた。薄い体に纏わせた和服は、彼にとってはあまり居心地のよいものではないようだった。
携帯の名を、ryu1-Mas.rosecross.Cという。


――時は20XX年、人々が人間型携帯を日常的に持つようになった時代の話――



中禅寺の商売は古書店である。もうこの文明開化という言葉など忘却の彼方で打ち捨てられたような時代に何とアナクロニズムな職業だろうと馬鹿にされるが、そんなことを言うのは馬鹿者だけであり、中禅寺は馬鹿の相手はしないのでなんら彼個人に支障は無い。
中禅寺は古書の香りや本の重さ、紙に刻まれた文字、ページの触り心地、そういうものを芯から愛しているのである。さんざん奇異の目で見られながらも通してきた和装は今や彼の一部というに足る。いつの世にも好事家や本の虫や古書愛好者は少なくは無い数で存在しており、中禅寺の店―京極堂は、今時ネット販売をしないという普通ならば考えられない経営方針でありながら、何とか生活を送ることができる程度には安定している。無論、独身の三十男が暮らすぶんには、という話だけれど。
中禅寺には伴侶はいない。女性経験は無いことも無いが、熱を上げられるような女性には巡り逢えず、大部分の時間を、本の頁と熱心に見つめ合うことで過ごしてきた。
京極堂にやってきた携帯電話は、ぐるりと部屋じゅうの壁を多い尽くす本棚を見上げて、ぽかんとして呟いた。
「…ちゅうぜんじさんは、ほんとうにほんがすきなんですね…」
中禅寺が馬鹿らしいと思うことには、購入したばかりの携帯電話は会話も流暢には出来ないのだ。携帯と持ち主の間の愛情形成の為だというが――冗談ではない。こちらは育児ごっこをしたいのではなく、ただ手軽な通信機器が欲しいだけなのに。
無駄金をはたいて厄介者を買い込んだろうか。実のところ中禅寺はひそかに後悔していた。
――腐れ縁の一人に榎木津礼二郎という馬鹿がいる。眉目秀麗成績優秀、そのくせ希代の変人だ。しかしこの世の中ではそのすべてがうまい方向に働いたのか、彼は一流の電子機器開発企業・榎木津コーポレーションの若くして有能な総帥である。そのきらびやかな肩書の彼と、ただの古書店のおやじに過ぎない中禅寺がどうしてであったかといえば、なに、ただ大学が同じだったというだけの話だ。
「おい中禅寺!おまえは携帯を持っていないんだったな。今在庫処分で安く売れるぞ。同窓生のよしみで特価も特価、大特価だ、よし、決まり。今から買いに行こう」
彼は何でもかんでも一人で決めるきらいがある。むろんはじめ中禅寺は憤慨した。だがよくよく考えてみれば、二十二世紀も目前というこの時代、やはり、携帯電話の一つくらいは持っておくべきなのではあるまいか。
見るだけだと言いながら訪れた携帯ショップのショーウィンドウには、マネキンのようにずらりと人型携帯電話が並べられていた。ショーモデルのような恰好でポーズをとり、微笑んでいる精巧な人型機械たちの群れ。
一抹のグロテスクさを覚えたのは確かだ。しかしあれこれと聞いていないことまで喋っていく榎木津の説明を聞くでもなく聞いているうちに、中禅寺の好奇心は少しずつ刺激されていった。あらかた見終わって、綺麗な人形たちに慣れてきた目を、ふと隅の方に転ずると。そこには。

「ほう。ピアノが弾けるのか」
どこか黒猫を思わせる容貌だった。黒髪につりあがった細い目、服装も地味なものを着けて、つんとした表情を浮かべて三角座りをした携帯電話。中禅寺が値札の横の説明書きを見てつぶやくと、聞き付けた店員がすっと近づいてきた。
「ええお客様。これはセクサロイドの亜種でございまして、今はもう生産されておりません。性能は多少正統派のヒューマノイドに比べると落ちますが、その分お値段はお勉強させて頂きます」
「セクサロイド?」
ええ。店員は滑らかな口調で言って、その携帯電話の顎を持ち上げて、顔がよく見えるようにした。
「最近かなり増えてきている種類です。無論どちらの性別の場合でもきっとお力になれます。
どうです、きれいでしょう? お客様」
中禅寺は改めて彼の顔をじっと見た。なるほど顔の造作は整っていた―少し軽薄な印象を受ける顔ではあるが。しなやかな体つきは服の上からでもよくわかった。「性格は大別した五タイプを基本に、我社が独自に設定した五百近い特徴からアトランダムに選ばれて決定します。最先端の技術を使っておりますので、精神面に於いても生身の人間と何ら遜色ございません。お客様には基盤となるタイプをお選び頂きます」
「ふむ」
中禅寺は顎をさすり、ぺらぺらと続く流暢な説明を聞いていた。




*青にょた益(先天)

※学パロ 青益+鳥口 鳥がキャラ崩壊気味かもしれない





「せっくすってなんですか、」
牛乳を吹いた。

☆☆☆


朝からよく晴れた良い天気の日だった。典型的な夏の一日という言葉がよく似合う。その昼休み、2E青木文蔵は、弁当箱を片手に、人でごったがえす廊下をいそいそと歩いていた。つい一月前から付き合い始めた恋人と共に昼食をとるために、である。彼の恋人の名は、2年A組益田龍一。男の名前のようだが、れっきとした女子生徒だ。まあ、あまり娘娘した容姿でも性格でもないが。青木はかなり本気で彼女を好いている。普段優等生として名を博す友人のこんなに愉快な一面を見逃すなんて誰がするであろうか。
故に鳥口守彦は、その浮き浮きとした後ろ姿に声をかけるのである。彼の手が戸にかけられる瞬間を狙い済まして。
「おー、青木君」
振り向く青木の顔には不承不承という文字が印字されているようだ。鳥口はその肩に手を回して、青木を抱き込む。
「なあーに?嬉しそうにして」また益田さんですか?分かりきったことをわざわざ聞けば、青木はひどく無愛想に「そうだけど」と応えた。うわーちょーうっとうしそうちょー面白い。
「ラブラブだね、毎日でしょ」
「だから何」
「最近青木くんが相手してくれないから守彦つまんなーい」
舌打ちかよ。暑苦しいと言って身をよじろうとする青木を足を絡めて止めて、「僕もご一緒させてくださいよ」
「嫌だよ」
「冷たいなあー」
「あのさ、時間無くなるんだけど。離してよ」
「良いって言うまで離しませんから」
青木の目つきが険しくなる。しかし鳥口だってこんな面白そうなことを見逃したくはない。
「やめてよ」
「一緒にご飯食べるだけじゃないですか。何が嫌なんですか」
「君がいるのが嫌だ」
「酷っ。僕ってそんな信用ないですかね」
「信用できないよ、君こないだだって保健教諭と噂になってただろ」
「―あれはまあ…」

「ちょっと何してるんですか!」

意表を突かれて声のした方向を見ると、廊下には件の益田が立っていた。
制服はセーラーではないが、夏服の白ブラウスの、胸元に赤い蝶リボンがついたデザインを、鳥口はなかなか気に入っている。紺のスカートの丈は膝と腿の中間ほどだ。普通より長めの前髪にはヘアピンがついている。彼女は多分平均より華奢な方だ。胸もさほど目立たないし、足も細い。シャープな顔立ちも相まって、どこかしら中性的な印象だ。
「益田さん」
「出入口だから邪魔になってますよ。遊ぶならもっと離れたところでしてくださいよ」
薄い唇を尖らせて言う。鳥口はその顔に笑いかけた。「こんにちはー益田さん」
益田は細いつりめを更に細めさせて言った。
「こんにちは鳥口さん。青木さんに何か用ですか?」「ん?いやそれがさ、青木くんが――」
「いいよ一緒に食べようか鳥口くん!昼ご飯ね!うん、たまにはいいよね、そういうのも、たまにはさ!益田さんごめんね、鳥口くんも一緒にいいかな?」
たまにはを強調するあざとさに笑い出しそうになる。どれだけ益田と二人になりたいんだろうか。放課後だって一緒に帰ってるくせに。しかも遮るとか。益田には二人じゃないと嫌とか渋る自分をみせたくないのか。それは一体どういう見栄の張り方なんだ。中学生か。
益田は、いいですようと笑った。拍子抜けするほどあっさりだった。細い手には無地のハンカチに包まれた弁当箱がぶらさがっている。


120831-0901
パロ難しい
続きかけたらかきます




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