宵酔い


※益田→×××さん・司益前提郷益ばかエロ
愛など無いみんな酷い


「美味えかよ」
益田の頭を押さえつけてしゃぶらせている本人がそう言ってくるから睨みつけてやった。美味いわけがないじゃないかこんなもの。強いていうなら苦い。まずい。そもそもきもい。けれど、言葉にするのも嫌なものでふさがれた口にそれをのぼらせることはかなわなかった。
ちくしょう、死んじまえ。思いながら、けれど、益田は舌をそれに絡めていた。そうしなけりゃ殴られるのだから仕方がない。これはやはり生存本能だ。犬でも持ち合わせたそれだ。益田は男のものをしゃぶる。舌で亀頭をなぞり、かりくびを喉の奥までぐっと入れて、とがった八重歯に触れないように、口をなるべくおおきく開けた。
それはやはり赤黒くて陰毛が絡む、気持ちの悪い逸物だったが、飴か何かだと思って目を瞑り耐えた。早く、はやく、はやくいっちまえこの野郎、平生口に出すことなんて無い呪詛を心中で吐きすてて、益田は四つん這いで奉仕を続けた。
頭の上にあてられた広い掌が、ぐっぐっと顔を上下に動かすようにと指示してくる。その屈辱に頭がどうにかなりそうだった。ふざけるんじゃない。髪を掴むな。そんな自慰の道具みたいに人の体を扱うな。しかし力には逆らえず、剥けあがった表面を啜りながら益田は顔ごと口を上下させる。
「むあ、ふぁ――…あふ、」
不規則なリズムによって、中のものが口から時折はみ出して、益田の吐息にいやな色がつく。それが癪だ。何でこんなことしなきゃいけないんだろう。それはもう何千回も自問しているのだが、いまだ答えは見つからない。しかしなんでこの人は僕を誘うんだろう。ホテルのカギを渡されてのこのこやって来る自分も大概なんだろうが。ぐっ、と喉の奥まで突かれて益田は思わずえずきかけた。吐き気がする。
「っあーー…」
気持ちよさそうな声出してるんじゃねえよきもいんですけど。我ながら喉の奥からせりあがる吐き気と紙一重の快感を拾う脳をおかしいと思った。じゅぅ、と赤黒い肉棒のむき出された表面を吸う。
「ふうぅ、」
ああよだれが垂れる。顎を伝ってシーツに沁みていく。息がはふはふと荒くなっていくのは断じて興奮しているせいなんかじゃない。単純に口を塞がれて息が苦しいのだ。赤らんでいく顔だってそうだ。絶対に気持ち良いなんて思ってはいない。だんだんと頭を押す手の動きが早くなる。ああ髪に癖がついてしまう。
「んっ、んんっ、ぁふ、」
ちゅぱちゅぱぐちゅぐちゅと音がたつ。言いたくもない、それはこの男の先走りと益田の唾液が絡み合う音だ。ああなんてこと、こんな好きでもない男のペニスを啜ってつばを垂らすような、そんな人間にはなりたくない。
「あっ、イくっ…」
「んんんっ…!」
一応身をもがいてみせたが、予想の通り、男はぎゅっと益田の頭を押さえて離さなかった。口の中で弾け散る精。臭いし。しねよ、熱いべとっとした、青臭い他人の体液が、探偵助手の口じゅうを犯す。薄ら涙目になっていることを自覚しながら、益田は、おとこの―郷嶋、の顔を見上げた。指示を仰ぐ為に。憎たらしいひげ面は案の定「ぁ? 全部飲めよ」とか射精直後なのに言ってくる。イッた直後にドヤ顔ができるその神経が信じられない。
「ほら、飲めよ。いい子いい子してやるから」
陶酔しきったような顔で言われれば―まんざらでもなくなったので、益田は嫌々ながらも思い切り顔を顰めて呑み込んだ。見下げてくる郷嶋と目を合わせたまま。
こくり、と喉が音をたてた。愉しそうに目を細めさせて、郷嶋はべろっと己の唇を舐める。
「ミルク美味しかったですかあ? ワ、ト、ソ、ン君」
このおやじの趣味の悪さには心底あきれ返るしかない。さむいっつうの。頭の中でそう突っ込んで、実際には益田は何も言わなかった。応えないまま顔をあげて、姿勢を直して、ベッドの上に座りなおす。郷嶋が、目の奥に欲望をくすぶらしてみてくる。
「…なんですか」
「おまえはエロいな」
司からきいたときは半信半疑だったけどよ。
そういいながら口のなかに指をつっこんでくる。仕方がないので睨みつけながら口をひらいた。八重歯をなぞる指、きっもちわるい。舌を掴まれて突き出される。満足げに目を細めさせて郷嶋は言う。
「俺の精子残ってんぞ」
白えな。言って下品に笑う。ひとしきり眺めたあとには解放してくれたので、益田は洗面台に立つ。背後に言った。
「僕だって知りませんでしたよ、あんたがこんな人だったなんて」
「あぁ?」
水道の蛇口をひねって水を出した。コップを使うのももどかしく、手で水を受けて、うがいをした。
「青木さんが聞いたらどう思うんですかね?」
鏡を通して、ベッドの上で陰茎をむき出した男が見える。精悍な、おおかみのような印象を与える男だった。凶悪にゆがめられたその面に、益田はなんとなくぞくぞくする。こんな顔をしている彼はきっとひどいことをする。郷嶋が何も言わないので、益田は俯いて手を洗いながら得意の軽口を始めた。
「青木さん、あなたのこと、ほんとに尊敬してるみたいでしたね。なーんかこう、きらきらした目で見ちゃって。あんたもあんたで、随分キザな台詞ばっか言うもんですから、ありゃあもう―…」
だん、と背後の壁が叩かれた。振り返ると目の前にがたいのいい男の、衣服に包まれた肩があった。
「うるせえぞ小僧黙れ」
「…いや黙りませんよ」
顎を引いて、心持ち体をずらして益田はそう応酬した。
「はは、あんたも青木さんのこと、結構気に入ってたようじゃないですか。でもあの人は木場さんがいるから、だから、代理としてこの僕ってわけですか。みじめ、」
言葉は最後までは言い切れなかった。ばしんとはたかれた頬を、一瞬おいて、痛いと感じた。次の瞬間けもののようにのしかかられて益田は洗面台に背中を打つ。衣服がりむりやりはだかれていく。
「っや…ヤですよ、」
「うぜえんだよおまえ」
うなるような声。ああこれは結構本気で怒っている、と、思った。それと同時にやっぱりぞくぞくした。どんなことをされるんだろう。できるなら、ひどいことをされたい。いっぱいいっぱいひどくされたい。だってそうでなきゃ、あなたと寝ている意味がない。
「けもの、みたい」
なおも憎まれ口をたたけば、
「おまえだって」
しっかり勃たせやがって、と言外に吐き捨てられてかあっと頬が熱くなった。益田のシャツの釦、ついで郷嶋はベルトを外した。あざやかな手際だった。今までの経験数が忍ばれる。ジッパをおろし、堅くなった性器を取り出して握り、郷嶋はいやらしげに笑う。その獰猛な顔に目を覆いたくなった。毒、だ。そんな捕食者の顔をして、わらわないで欲しい。
「は、じゃあまあお返しだ」
躊躇いもなくくわえられて思わず腰がはねた。
「ッヒっ、」
郷嶋がくつくつと喉奥で笑う、その振動がダイレクトに伝わる。べろりと舐め上げられて、やわやわと性感を刺激されていく。
「っぁ、ちょっ…と、さと、じまさ、ア」
「おめえはよがってればいいんだよ」
そんな、き、亀頭にキスなんて、やめてくれ、馬鹿じゃないのか、このオッサン、よだれが無精ひげと益田のペニスをつなぐ。淫猥さにがんっと頭を殴られたような衝撃があって、へなへなと益田は洗面台の上に腰を落とした。郷嶋が言う。
「ンだよ若者」ちったぁ励め。
「あんたみたい、にっ、そんなエロいだけの親父にはなりたくなっ、い、あっ、やっ」
やばいうまいつば垂れる。口を手で押さえて唾液の受け皿をつくって、益田ははふはふと呼吸した。気持ちよさに頭が動き髪が揺れる。そんな舌遣いは反則だと思う。足が思わずすりよるように内に閉じ、その中央に座しましている郷嶋に、狭ェよ馬鹿とののしられた。
「んヒッ、」
その言葉に腰をはねさせれば、男は「マゾヒストめ」とつぶやく。
結局洗面台の上に乗せられて、足をМ字に開かされて、二回イかされた。


初めて関係をもったのは、そう遠い昔というわけでもない。例の事件から二月ほど後のことだ。
益田は司とたまに寝ていた。その契機という契機は、まあお決まりの酒に流されてというものであったし、結局、実りようもない恋をしていた益田は、一人寝の寂しさに耐えきれられなくなっていた。かといって、見るからにれっきとした異性愛者で、まっとうな恋愛と結婚がお似合いの同年代の友人を誘うわけにもいかず。酒場で釣るにしたって、病気とか怖いし。
その点、司喜久夫という人間は―便利、だった。榎木津や中禅寺、関口とも面識があって、愚痴を零すのにも遠慮はいらないし、裏の世界の住人なだけあって、複雑な事情は問いたださず、秘密は秘密としてしっかり腹の中に納めてくれる。甘えるのには要領のわかった年上がいちばんだろう。益田はそう思っている。そして、少し慰めてあまい顔をしてくれれば、別にいいかな体ぐらい、とか、そういうふうにあっさりと、探偵助手は思うことができた。今思えば、司は益田がそういう人間であることを解っていたのかもしれない。ああちょっと若い子食べたいな、このコならきっとオッケーだな、そんな気持ちだったのかも。
司は隠し事もとても上手だから、益田はいまだに彼の真意はわからない。ただ、横恋慕の三枚目、なんて、ガラじゃあないから。そういわれたのは記憶にもやけに鮮明だ。益田は仰天したものだった。いつから悟られていたのか全く分からなかった、自分の、はしたない恋心。あさましい。どちらかといえば清涼な印象を残す彼にそんな情を寄せるなんて、ひどく恥ずべきことに思えた。益田は悶々と苦悩していた。それでも、顔は合わせなければいけない。不自然にしてはいけない。気づかれてはいけない。山ほどの「いけない」に心は次第に攻め立てられて、日増しに憔悴していった。
「きみは結局まじめなんだね。なら無理に、軽薄ぶるのやめたらいいのに」
司の、髪を撫でながらのその語調は、たとえ下心からだったにせよ、酒をあおった益田を泣かせてしまうくらいには優しかった。優しくて、甘えたくて、泪でうるんだ目で司を眺めたら、接吻されて、舌を入れられて、押し倒された。しゅる、とタイをぬかれる音を聞きながらそれでも、ああまたかと、酒で濁った頭で思ったことを覚えている。
で、まあ。郷嶋とどうしてこんな関係にもつれ込むことになったのか、と、いえば。

「うう、っ、んっ」
「おまえうるせーよな。まーエロいからいいけど」
あらぬところ、なんて月並みな言葉を使いたくはない、が。普段意識にのぼることもないそこに他人の男の指が侵入しようとしている。処女なんて警官時代にとっくに捨てていたけれど、久方ぶりのそれにはやはり羞恥と違和感が伴うものだ。気持ち悪い気持ち悪い。
「我慢しろよ後でよくなるんだから」
「ばっ、かじゃないですか、あんたこれが我慢できてたら世話ないです、よ、おお…」
憎まれ口を叩けば、彼はまあなと言って苦味走った笑みを浮かべた。乳首をいやらしげに食(は)まれて、興奮するなというほうが無理だった。びくんっと身を反らせて益田はあえぐ。あえいで、男の頭に触って剥がそうとして、それでもなお吸い付いてくる彼を薄らと滑稽だと思った。思いながら、その反面、こんな伊達男が自分の身の上に蹲るという背徳に妙に背筋か粟立つのを止められない。
「…っ」
郷嶋の腕は太く筋張り堅い。厚い手のひらは銃を扱いなれた人間のそれなんだろうか、益田は拳銃なんて嫌いだったから、必要最低限しか触らなかったけれど。益田を舐めながら郷嶋は全身を撫でる。益田を強く抱きしめて、鎖骨の辺りに鼻をうずめて匂いを嗅ぎ、執拗に胸をいじる。
「やっめっ…変態」
「その口がいうかよ」
言われなくたって下肢が三度めの熱をもち始めたのをわかっている。さすが若ぇなと言い男が笑うから、益田は羞恥で死にたくなった。お互い丸裸のベッドの上で隠し事などはもう出来ない。郷嶋がゆるゆると益田のペニスを扱いていて、もう片方の手で益田の口を開かせる。ベッドヘッドにもたれて、益田は従順にその指を吸った。郷嶋の口数は段々と少なくなり、次は彼は益田を「ひらく」のに従事しはじめたらしかった。


120811
郷益はどうして益田がこうすれるの




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