あぁなんで私はもう二度と来るまいと誓ったクソ学校へ来ているのだろう。諸悪の根源であるマサキを睨んでも、当の本人はニヤニヤ笑って楽しげにこちらを観察するだけ。サッカーしろクソ餓鬼。…よし決めた今日の晩御飯はマサキの嫌いなものだけで揃えてやろう。

雷門を訪ねた次の日の土曜日、悲しいかな午前上がりの登校日の放課後に私はまたその忌々しい場所に訪れていた。
一旦家に帰るのも億劫で格好は昨日と同じ帝国学園の女子制定服。そのせいで余計に目をひく、というか悪目立ちするらしく、グラウンドの周りには好奇心に目を光らせた中学生どもが姿を現しては消えていった。


「しっかし狩屋に姉ちゃんなぁ…」
「私、ちょっとわかるかも」
「ですよね。狩屋くん、時々末っ子っぽいところあるし!」


以上、グラウンド内で練習を続ける少年たちを尻目に行われた井戸端会議での感想である。しかして私はそんな彼女たちの会話に然り気無く交ざりながら、仕事を手伝ってあげていた。
マネージャーの仕事って意外と力仕事なんだよなー。ドリンクとか11人分運ばなきゃいけないわけだしさ。中学生の女子がこんな重労働を毎日こなしてるのかと思うと感服する。そんなこと考えてるあいだに気づけば私はドリンクのケースを雨よけのしたのベンチまで運び終えていた。
赤縁メガネのかわいい先生が選手たちに休憩を告げて、ぞくぞくと戻ってきた部員たちがドリンクケースを手に取っては仲間と歓談を始める。その姿のなんと爽やかなことか。うーん若いなぁ…部活に一生懸命って感じ。茜ちゃんや葵ちゃんからタオルを受け取っていく彼らを人好きのする笑顔で見ていると、黒髪のゴーグルをつけた子が突然「おおー!」と声をあげた。


「この人が狩屋の姉ちゃん!?びっじーん!」
「なんだか狩屋くんを大人っぽくして女の子にした感じですね」
「そりゃ狩屋と血が繋がってて年上なんだから当たり前だろ」


黒髪ゴーグルくんに続いて赤髪メガネくんと…言っちゃ悪いかもしれないんだけど鬼太郎みたいな子が興味深気にやってきて好き勝手に人を評価し始めた。マサキはそれに気づいてニヤニヤ顔のまま「もー、やめてくださいよー」と後輩らしく照れて嫌がる素振りを見せている。内心その行動が全力投球のものだとわかるのは同族だからか姉弟だからか。どっちにしろ嫌なんだけど。


「その、すみません。浜野たちが無理を言ったせいで…」
「え?あぁいや、いいんだよ別に」


茶髪の品のよさそうな子が騒ぎを聞き付けてわざわざ謝罪しに来てくれた。こちらもセオリーを返す他ない。本当にね、なんて本心は絶対口にしない。とりあえず自己紹介を頼むと、みんな素直に名前を明かしてくれた。
しかしその中の"霧野"という少年の名を聞いた途端に、体が勝手に反応を見せた。一見すると女の子みたいな容姿だけど、男の子なんだろう。あえて言い換えるなら男の娘、かな?


「君が霧野くんかー。なんかマサキが迷惑かけたみたいで、ごめんね?」
「いえ、そんな。狩屋はただサッカーが好きなだけですから」


それにしても、よく俺が男だってわかりましたね。と続いた彼の言葉に思わず皮肉をこぼしそうになって慌ててひっこめる。あぶないあぶない、気を付けないと。表面上は満面の笑みで、だろ。私。
たとえどんなに気分を害しても冷静たれの精神じゃないと!


「当たり前だよー。だって、女 の 子 は サ ッ カ ー で き な い ん だ も ん」


それでもにじみ出る…オーラ?っていうの?はコントロールできなかったみたい。私がそう言った瞬間霧野くんの顔が青くなってしまった。おいおい、ついさっきまで冷静たれ!とか言ってたくせに。やっぱりサッカーが関わるとうまくいかないなぁ…


「あ、あの…」
「あ、休憩の邪魔しちゃってごめんね!はい、タオル!!」


彼が何か言う前にタオルを渡して会話をかわす。言及されちゃかなわないし、タオルも一枚残ってるし。誰に渡せばいいのか考えていると、天馬くんの声で「剣城!」と呼ぶのが聞こえて、武者震いしてしまった。
剣城…って、あいつよね。


「チャンスとうらーい」


小声でポツリと、俯きながら悪巧み顔で呟いた。












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