「えぇ!?狩屋ってお姉さんいたの!?」
「知らなかった、なんで教えてくれなかったんだよ!」
「え、あー、忘れてたや。ごめんね」


ここは雷門中のマサキのクラスの中。クラスの前に突っ立っていた私は葵ちゃんって子に連れられて、今はマサキの友達に囲まれていた。


「…で、姉さんはなんでここに?(何で来やがったんだよ…チッ)」
「マサキがお弁当とユニフォーム忘れて行ったからでしょう?もー、どうしようか悩んだんだからね!(自業自得よマサキ)」


私たちの小声の嫌みの言い合いに気づいていない葵ちゃん天馬くん信助くんはいいなぁと言いた気な目で私を見つめている。うんうんこれこそ普通の反応よね。私が求めていたのはこういうちょっとバカな子たちなのよ。たとえ心で辛辣な言葉を吐いても表に出さなければ伝わることもない。はい、とお弁当をマサキに手渡すと、猫をかぶったマサキが気持ち悪いほどの笑顔で「ありがとう」と受け取った。…誰、あんた。


「狩屋くんのお姉さんは帝国学園の高等部なんですね」


マサキの気持ち悪さに一人鳥肌をたてていた私の制服を見た葵ちゃんはそういって少し羨ましそうな表情をした。名前から連想されるように、うちの学校の制服は軍服に似ている。一般的な女子ならどこの学校の制服がかわいいとかかっこいいとかいうのを知っていることは重要だろうし、もしかしたらこの制服に憧れを抱いている可能性もある。年下の素直でかわいい女の子に羨望を受けるのは私の自尊心を心地よくさせるから好きだ。よって葵ちゃんも好き。好みの子には優しくしてあげるのが私の信条である。


「そうなの。マサキが私と別の高校がいいって言い出しての、」
「ちょ、ちょっと姉さん!」


私がなにを話そうとしているか察したマサキが慌てて会話に割り込もうとする。けど、遅いよマサキ。気を抜いたらダメなんだからね。私がすぐ気づいて弱味を晒してやるから、いつでも臨戦態勢じゃなきゃ。


「えぇ!?なんでだよ狩屋!」
「いいお姉さんじゃないか!!」


案の定引っ掛かった天馬くんと信助くん。やっぱり単純な子は扱い易くて嫌いじゃない。ニタァと厭らしい笑みを浮かべたいのを我慢して微笑みを貼りつけ、「そう?嬉しいな」なんて小首を傾げた。


「(ちっ、姉さんの嘘に騙されやがって)そ、それより姉さん、よく俺のクラスがわかったね?」


必死に話題を変えようとするマサキを見て嘲笑を浮かべたいところだが、その言葉には言外にクラスなんて教えてないのになんでわかったんだという疑問が見てとれた。マサキの方はたぶん私が何人も無駄に人に話しかけて自分のクラスを判別したんだろうとか姉さんだせぇとかそんなこと考えたに違いないけど、そんなこととは関係なく頬筋ぴきりと表情が固まった。
…今まで無理に忘れてやってたのに、無意識に的確に嫌なところを突くその性格は誰に似たの。
まぁいい今は不問に処してやろう、私の本当の目的は違うところに今設定されたから。


「あ、そうそう。そのことで聞きたいことがあったんだぁ」
『聞きたいこと?』


珍しくマサキを含めた4人がキョトンとした表情で私を見る。その目の透明感がいかにも中学生でかわいいななんて思うけど、同時にさっきの少年までフラッシュバックしてきてまたイライラが再発する。これは家に帰って格ゲーでもしないと生活に支障がでるレベルにまで達しそうだ。


「学ランを羽織ってて髪を結んでる、目付きの鋭い子が案内してくれたんだけど、名前を聞きそびれちゃったの。誰か知らない?」
「姉さん、雷門の男子生徒は皆学ランだよ?」
「あ、そうだった。じゃ、あと…たしか、サッカー部で、」
「サッカー部?」
「じゃあ僕らも知ってるはずだよね」
「目付きの鋭い…倉間先輩とか霧野先輩とか?」
「FDで一年生の、背の高い子だったよ」
『あ、剣城(くん)!』


私の呟きをヒントに同時に答えにたどり着いた皆は、へぇ…とそれぞれ驚いたように呟いた。…どんな奴なんだ剣城ってあの餓鬼は。案内したって聞いて皆驚いてるし、あのマサキすら少し目を開いている。


「えっと、剣城くん、って子なの?」
「そうです!剣城京介って名前で、凄いストライカーなんですよ!」
「もとはフィフスセクターのシードだったのよね」
「でも今じゃ僕らの仲間だよ!」


次々と聞いてもない新しい情報が入ってくるが、今最重要なのはただ一つ。剣城京介というあいつのフルネームだけだ。ともかくあんたの尻尾、掴ませてもらったわよ。さぁ覚悟することね剣城!!と、一人その場で私は意気込んだ。






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -