「あぁ、雷門中ってここなの」


特徴的な校舎の前に建つアーチの前で、ケータイ片手に私は突っ立っていた。決して暇だから学校見学とかそんな理由ではない。心の底から面倒だけど私の弟が弁当と、部活用のユニフォームを忘れて行きやがったからだ。あの子の新手の嫌がらせだろうかと考えを巡らせながら、あぁ猫かぶるの疲れたなとも思った。弟想いのいい姉というキャラのポジションは世間ウケはいいけど、維持するのが大変なのだ。
とにもかくにもそんなお優しい性格のお姉さまが困っている弟クンを見て見ぬフリなんてするはずもないので、私のお昼休みを返上してとりあえずお弁当とユニフォームは持ってきてあげたわけだけど。


「しまった私としたことが…マサキって何組?」


こんな初歩的なミスを犯してしまった。持ち物に学年・組・名前を書くようなオトシゴロでもないし、行き詰まり、デッドロックだ。まぁ正直マサキがそんなことしてたらドン引きするけど。


「おい」


そんな折、前方から訝しむような声をかけられた。顔を向けるとそこには変な格好で学ランを着こなした色白の少年がポケットに手を突っ込んで立っていて、明らかに私に声をかけた様子で眉間に皺を寄せていた。


「えっと…私、かな?」
「お前以外に誰がいるんだよ。で、お前何者?誰かに用事か?」


初対面から失礼な発言を咬ましてくる少年にイラっと頭が沸き立つ。もちろん"表"の私は怒鳴ったりなんかしないから、少し困ったような表情で笑って口を開いた。心中は罵詈雑言の限りを尽くしているがバレるわけもないだろう。


「別に怪しい者じゃないよ。その、弟が忘れ物しちゃって、届けに来たの。狩屋マサキって子なんだけど、知ってるかな?」


できるだけ静かそうな女の子の喋り口調で話しかけてやるとどうやら思い当たる人物がいたらしい。くるりと私に背を向けて「ついて来い」と少年は歩きだした。その行動すら癪に障る。大抵の年下はこれだけで友好的に接してくるものだけど、どうやら目の前の少年は賢い部類のようだ、こんな手には引っ掛からないらしい。それとも何か感じとったかな?いや、私に限ってそんなヘマはしないだろう。とにもかくにもこの私の横を歩く少年は私の一番嫌いなタイプだ。今それだけは確信できる。
だけどまぁだからと言って一言も喋らないなんてのは私の作り上げたキャラには合わないわけで、不承不承話しかけてやるしかない。あぁ猫かぶるのってなんて面倒。


「ね、君何年生?」
「…一年」
「そうなの?身長高いんだねぇ!私より大きいし」
「…どうも」


一応一般常識として話しかけるがこの反応。あぁダメだフラストレーションはたまる一方。因みに私は女子の中でも高い方だからこの身長はそれなりの自慢で、中坊のそれも一年なんかに抜かされているという事実もイライラの原因のひとつである。まぁ一番はこいつとの会話だけど。ここまでくると最早意地だ、なにかこの少年でも食いつきそうな話題を味噌がいっぱいに詰まった頭で考えてやる。


「それだけ高いとどのクラブでも引っ張りだこでしょ?何部入ってるの?バスケとかバレーとか?」
「…サッカー」
「マサキと同じだ!だから知ってたんだね!!あ、ちなみにポジションは?」
「…フォワード」
「じゃあ攻撃の主軸?すごいね!」


結局クラブの話でも話は盛り上がらなくて、校舎に入って階段を上っている間も他の話題を探してみるけど見つからない。上りきって少し行ったところで、横にいた学ラン少年は突然立ち止まった。


「ここだから」
「え、え?あぁ、うん」


違うことを考えていたせいで返事が遅れてしまう。クラスの看板を見上げてから振り向いても、例の少年はすでに姿を消した後。


「…ありがとうって言い忘れた」


というか言う暇を与えなかった、が正しい。見知らぬ学校の見慣れぬクラスの前で一人放置するとか何なの。思わず素でお礼言い忘れたとか言っちゃったじゃない。…もうダメだ、あいつは今度会ったら家まで調べ出して闇討ちしてやる。今決めた。












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