ありがとうございましたー


オレンジに染まったグラウンドで今日もサッカー部の少し疲れを滲ませた声が響いて部活動は終了した。こんな風に悠長に話してる俺も本当は心底疲れている。でもまぁ今から家に帰れると思えばどこから湧いてくるか知らないが少し気力体力共に回復して、他の奴らの流れに沿って部室へ足を向け…


ドンッ!!


ようと振り向いたところで衝撃がぶつかってきた。
来たんじゃない、ぶつかってきたんだ。
もちろん不意打ちだったから俺はそれに対してなにか対抗策があったわけでもなく慣性の法則にしたがって吹っ飛んでいくわけで、衝撃に気づいた次の瞬間には体が芝生の上を少しスライディングしていた。
横からの攻撃だったから反対の腕が摩擦で少し痛い。
いや、それよりだ。


「なっ、誰だ!?」


衝撃の正体を知ることを優先して上体を起こすと、そこには黒い固まりが馬乗り状態で俺の上に乗っていた。
んで何事かを呟いていた。


「もうやだもうやだもう家から出ない引きこもるぅぅぅ…」


は?イエカラデナイヒキコモル?一瞬翻訳を拒否した脳を叱咤して考え直してみる。そうしてわかった日本語から鑑みて相手が誰だか判別する。こんなことを、わざわざ俺にぶつかってきてまで言うような奇特な奴は俺の知り合いの中に1人しかいない。


「おいなまえてめぇ…」
「うぅぅぅ…あれ?」


少し唸ったあと顔を上げたのはやっぱり思った通りの奴だった。
たしかこいつ今日も大学受験に行ってたんじゃ、なんて思い出した瞬間目の前の女は我に返ったように「京介くんー!!」と叫んで首を絞めてきた。ちょっ、入ってんだよ…!抱きついてきたつもりだろうが命の危機を感じた俺はとにかくなまえの肩を掴んで引き離そうと躍起になる。のだが、お前どっからそんな力が出てくるんだと言いたくなるような馬鹿力がまるで接着剤のように体同士を剥がそうとしない。後ろ手に上体を起き上がらせていた俺は支えを失って、また地面とこんにちわだ。


「あれっなまえさん!?」
「わぁ、本当だ!」


こんだけうだうだやってたらまぁ気づく奴もいるわけで、コロネと電気鼠が帰ってきやがった。いいんだよてめぇらは!だからとっとと部室へ帰りやがれお子ちゃまズ!!
そう言ってやりたいのはやまやまなのだが、如何せん頭を再度打ち付けた直後だったのでうまく脳味噌が反応してくれない。
そのままわーわー騒ぐ2人に、俺にしがみついたままのなまえが首だけをそちらに向けてやっほーと空元気な声で返していた。様子がおかしい、その深刻さに今やっと気がついてなまえの顔を見てみるが、元気さを繕ってる顔からは空元気な雰囲気しか読み取れなかった。仕方がないとため息を吐いて未だバカ2人と話しているなまえに話しかける。


「おいなまえ、起き上がれねぇから取りあえず首にしがみつくのはやめろ」
「ん、」


途端殊勝になったことからもよっぽどのことなんだと予想をつける。大人しく腕が離される感覚と共に半身を起こして松風と西園に目を向け、お前らはやく着替えに行けよと口に出した。俺は後で行くと言えば情緒なんて解さない奴らは「わかったー!!」と暢気に叫んで部室に走っていく。姿が見えなくなったのを確認して…さて、こいつか。


「…お疲れさま」


耳元で呟いてやると、なまえの肩がピクリと動いた。


「…京介くうぅぅぅぅん!」


やたら語尾を伸ばしながらまた抱きついてくるのを拒まずにとりあえず頭を撫でてやると、遠慮もなしに力一杯抱き締めてきやがった。またため息一つついて後頭部と背中を抱えてなまえの肩に顎を乗せる。とりあえずすぐ側で聞こえる微かなぐずる声が聞こえなくなるまでこうしていてやろうと思った。



わかってるよ


「…ずっ…ありがと、京介くん」
「もう満足か?」


気づけば辺りは真っ暗で、たぶん他の部員たちは全員帰ってしまっただろう。グラウンドを通らないと帰れないこの学校の構造は少しどうにかしたほうがいいと思う。おかげで明日は朝から冷やかされるフラグだ。


「えへへ…うん、もう大丈夫…だと思う」


京介くんも十分充電したし。
照れながらはにかむなまえの羞恥が移ったのか、それを見た俺の頬まで熱くなる。辺りに灯りもない第2グラウンドでは俺の顔も見えないのか、京介くんが足りなくて毎日泣きそうだったんだよとか、いっつも会ってたからすごく物足りなかったとか、でもせめて受験終わるまでは会わないって決めてたのとか。だから気づいたらここにいたのかな、なんてこちらが恥ずかしくなるようなことをペラペラと教えてくれて、ますます頬が熱くなってくる。無意識にでも俺に会いに来てくれたことがどうやら嬉しかったらしい。そんな考察をしているとなまえが少し体を離して俯いたからどうしたのかとその顔を覗き込んで、そうして呟かれた言葉は、


「…寂しかった」


最後のだめ押しだった。
恥とか外聞とか捨てて俺から抱き締める。腕の中のなまえはなにごとかとあたふたしているが、少ししたら背中に腕を回された。


「…お前だけじゃ…ないんだからな」


ぽそりと呟くと、少しの間のあと真っ赤な顔の満面の笑顔と対面できたから、俺もまぁ、満足したってことで。





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受験シリーズ第2弾!←
あともういっこ続く予定。

剣城フィーバーすぎて毎日死にそうです剣城ー結婚してくれー!!







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