もう少しで日付も変わるって時間帯。受験目前の俺は他の受験生と同じように勉強していた。静かな部屋は勉強するのにうってつけで、なんの邪魔も入らないこの時間が俺は好きだった。そんな静寂を切り裂くかのように突然携帯のバイブがベッドの上で震え始めた。


「…チッ」


誰だよこんな時間に連絡してくるとか。バイブは一度で収まらず二度三度と振動を繰り返している。どうやら非常識にも電話をかけてきているようだ。倉間だったら次会ったときにぶっ飛ばす、なんて意気込んでとにかく煩いバイブを止めようと手にとった。パカリと軽い音をたてて携帯に光が灯る。そこに表示された名前に少し驚いて、知らずに通話ボタンを押していた。


「もしもし」
「あ、篤志、くん…?」
「…どうかしたのか?」


電話の相手は彼女のなまえ。あっちもあっちで大学受験なんて大変な問題を抱えていて、俺がこっちに引っ越すよりもずっと前から極力連絡しないようにしていた相手。久々に聞いた声に心が少しざわめくが、今はそんなことよりなまえの声が揺れていることのほうが気になった。


「ふっ…も、やだぁ…」


明らかに涙声で告げられた内容に一人首を傾げる。嫌だ、とこいつは言ったが、なにが嫌なのか。主語がはっきりしない今、俺は聞き専になるしかなさそうだ。


「どんだけやっても英語が上がらなくて、日本史だってダメダメで、本当私なんて受かるわけないし、も…受験しないほうがよっぽどましなんじゃないかとか、考えちゃって…」


なるほどどうやら受験戦争の荒波に揉まれてだいぶノイローゼ気味のようだ。ふと時間を見てベッドに腰かける。俺の今日の勉強はあれでやめるとして、今日の残り時間はなまえにつぎ込んでやることに決めた。


「なに言ってんだ、もうあと少しの我慢なんだろ?それに、受験の出願だってしたんじゃないのか?」
「ずっ………うん」
「じゃあもう受けるしかねぇじゃねえか」
「…………………受けたって、受からないもん」
「んなもん受けてみねぇとわかんねぇだろ」
「わた、私なんて死んじゃった方がいいのかなぁ…」


あぁダメだ、と思った。俺の声は今こいつに届いてないな、と。それほどまでに追い詰められているのに俺はこいつを抱き締めてやることができない。今更ながら転校した自分を恨めしく思った。でも、これだけは…、それを伝えたくて口を開く。


「死んじゃった方がいいとか軽々しく口にすんな!」
「っ!」


電話の向こうで小さく息を飲む音。


「俺が何のためにそっちの高校受験するか、考えてみろよ」
「ぇ…将来、のため?」


たしかにそれも理由の1つにあるから強く否定はできない。が、それは理由としては二番手だ。勉強のしすぎかどうだか知らないがどうやらそれ以外のことには思考が鈍くなっているらしい。


「ちげぇ、とは言いづらいけど、それが一番じゃねぇよ」
「じゃ、じゃあ…わかんない」
「はぁ…お前といつでも会える距離にいたいんだよ」


この俺でもこっぱずかしくなるようなことをいってやると、なまえは短く奇声を発したあとに盛大になにかを倒したような音を立てて電波にのせてきた。おおかた椅子から転げ落ちたとかそんなんだろ。そんななまえの状況を考慮にいれてやる俺はなんて優しいのか。
少しして向こうが静かになったのを見計らってまた口を開く。


「だから死んだほうがいいとか言うな」
「わ、わかった…」


電話口からでもわかる。きっとなまえは真っ赤な顔で、俺がいないにもかかわらず足元に視線を寄せているんだろう。


「あと少しの我慢だろ」
「うん…うん、そうだね」


わかったよ頑張るよといつもの調子が戻ったようだ、声に元気が混じってきた。


「よし、頑張れ。お前が受かってくれないと一緒に住むのも無理だしな」
「そうだね!…え!?」
「じゃあ俺もう寝るから」
「いや待って篤志く」


相手の台詞はぶったぎって閉じた携帯を枕元に放る。
頑張れ、心の中で呟いてまた勉強机に舞い戻った。あの夢を実現させるには俺が受かることが最低条件だ。ならこんなとこでボーっとしてる暇はない。シャーペンを握り直して、 あいつとの未来を実現させるために。



沈む愛に溺死





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受験中の狂った頭で書いたもの。
久々すぎて文章おかしいかもですがスルーでお願いします
液体窒素と赤い花」さまよりお題拝借







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