秋とも冬とも区別しずらい気候と気温の日々。そんな日だとしても私はいつものようにして外へ出て、上を見上げていた。


「お前、こんなとこにいたのかよ」


突然下から声が聞こえて私は視線をグンと下げた。あ、今首痛かった。さすがに上見すぎたかな。


「どしたよモッチ」
「モッチ言うな。誰かさんがいなくなってたからちょっと探しに来てやったんだよ」
「へー」


どうでもいいと思いながらの返答はやっぱりどうでもいいという色に染まっていて、それを倉持はまたつっこんだ。それもまたどうでもいいことなんだけど。


「で、お前んなとこでなにしてんだ?」
「んー…見てわかりませんか」
「アホ面で虚空を見つめてる」
「バカか」


んなことするわけないだろ。私はどこの電波ちゃんですか。


「星」
「は?」
「見てたの」


言われて倉持も顔を上げたのか、うわ…なんて声がやっぱり下から届いた。


「上がってきなよ。こっからの方が近いよ」
「たかが数メートルだろ」


と言いつつ倉持も用具倉庫の上に上ってくる。


「つかお前寒くねぇのかよ」
「あー…まあ、マフラーあるし、カイロあるし…寒くはないかなぁ」
「つってもお前鼻真っ赤だけどな」


そう?なんて上の空で返しながら私の視線は相変わらず空へ向けられる。東京にいてもこんなきれいな空を見れると知ったのは半年ほど前のことだ。


「………すげぇな」
「うん」


夜空一面の星、なんて言葉が頭を掠める。星の絨毯が本当に日本で見れるなんて。


「なんか、自分が矮小な存在に思えるよね」
「ヒャハ、んだそれ」
「だって、こわくならない?こんなに満天の星空」


こんな日の空に私は見上げる度恐れを抱く。なんでなのかわからない。やっぱり私が矮小な存在だからだろうか。


「いや?ただきれいだとは思うけどよ」


倉持の返答に私は彼の横顔を見た。どうやらこいつは恐怖しないらしい。なら、


「きっと倉持は大物ってことだね」
「んだそれ、馬鹿にしてんのか?」
「違うくて。私は矮小な存在だから、いつも見上げるときこの空に恐怖するの。それは私が矮小な存在だからで、だから恐怖しない倉持はきっと私なんかよりも大きな存在なんだろうなって」
「…そもそも存在って、大きさを測れるもんなのか?」


お互いを見つめあった私たち。倉持のその言葉は私の考えもしないことだった。


「あ…そっか。じゃあなんでだろ?」
「性格の違いじゃねぇの?俺、何事にもあんま動じねぇし」


ヒャハハなんて倉持がバカ笑いする。そうか、だから。


「人の秘密の場所も簡単にずかずか入り込めるわけですね」
「は?」
「一応ここ、誰にも教えてない私だけの秘密の場所なんだよ」


ここで、倉持は動揺をみせた。どうやらさすがに秘密の場所とまで言われたら動じるらしい。


「なーんてね」
「は!?」
「うそだよ。私だって天文部がここで天体観測してなかったらこんなとこ気づきもしなかったもん」


校舎の奥。都会の光や、ナイターのあの明かりさえも届かないそんな秘密の場所。


「んだよそれ…ちょっとびっくりしちまっただろうが」
「うん、動じないとか言ってたくせに思いっきり動揺してたね」
「なっ!あ、あれは!!っかここにこいって倉庫上まで呼んだのはてめえじゃねえか!!」
「そーだね。だって、倉持ならまぁ教えてもいいかなって」


ニコッと意味深な笑顔を見せると、倉持は一瞬肩を強張らせた。


「そ、それはどういう意味で…」
「さあ、ねえ。ほらそろそろ下りて寮に帰ろ」


ぴょんと身軽に飛び降りて私は先に歩き出す。後ろから、かなり遅れて倉持が追いかけてきた。




スターダスト

(おい、待てって!!)

(さっきのの意味に気づいたら待ったげるー)











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