眠れない。

私は暗闇の中目をしっかり天井へ向けながら心の中でひとりごちた。

別に不眠症というわけではない、はずだ。
いつもなら布団に入って10分もしないうちに夢の世界へさようならしている。それが、今日に限って頭が冴えているのだ。

もう丑三つ時もとうに過ぎた時間帯である。
こんなとき、非常識だとわかってはいるが誰かと無性に連絡が取りたくなるのは私の悪癖だろうか。


「でもなぁ…こんな時間に返してくれるような知り合い…」


はっきり言って、自分で呟いておきながら一人も思い当たらない。大体夜更かし型の人間が周囲に少なすぎるのだ。
女友達ならこんな時間に電話をかけようものなら明日何をさせられるかわからない。
男友達は、野球部ばかりだ。きっと疲れて寝てしまっている。
こんな時ばかりは好きな野球もなんだか忌々しく感じてしまう。
けっ、優良男子球児め。


「…いや待てよ?」


一人だけ…もしかしたら返してくれるかもしれないやつがいる。
決して起きてはいないだろうけど、気づいてくれたら。きっと律儀に返してくれる。
そんな確信をもって私は知らず電話帳からそいつの名前を選びだしコールボタンを押していた。

聞きなれているはずの機械的な呼び出し音がやけに他人行儀で長く感じる。

お願い、出て…出て。

願いが通じたとは思わないけれど、呼び出し音は突然その動きを止め無言になった。
ごそごそと布の擦れあう微かな音の後に「はい…」と寝起きの掠れた声が鼓膜を震わせた。
その妙に色っぽい声にドキッとして固まっていると、「あー…誰だよ?」と向こうが痺れを切らせてしまった。


「あ、の、ごめん。私」
「は?」
「みょうじなまえ、デス…」


さすがにちょっと気を悪くしたかなと途切れ途切れに名乗ると、電話口からは50音の最初の音を間延びさせてなにやら動いている音が聞こえてきた。
ギィ…と鉄の擦れあう音がして、ガチャンと閉まる。

「どうかしたのかよ、こんな時間に」
「あーうん、ごめん。寝てた、よね?」
「ヒャハ、起きてたと思ってんのか?」
「いや、思ってません。ごめんなさい」
「おーまぁいいけどよー」


どうした?
その二度目の問いがあまりに優しくて少しキュンときてしまった。
もしかしたらただ眠いだけなのかもしれない。そう考えるのが妥当だろう。
今更ながら罪悪感を感じつつ、でも少しでも倉持と話していたいなと心の隅で思っている私がいる。
こんな時ばかり彼は優しいのだ。
いつもはやたらと嫌味を発する口から、こっちが安心するような声音で応対してくれる。彼の優しさにつけ込みたくなる。
そんな彼を少し狡いと思う私は、狡いのだろうか。


「ごめんね、夜中に…眠れなくてさ、倉持なら電話取ってくれるかなって」
「お前にそんなに信頼されてたとは、初耳だぜ」
「う…信頼…なのかな?最初に思い出したのが倉持だったんだけど…」


倉持の言葉は少し私の考えとは違っていてなんだか動揺していまう。
夜だと言うことも相俟って、よく分からないことを口走ってしまった。それに対しての相手の反応は無言で、少し心配になってしまう。


「…倉持?」
「てめーなぁ…寝起きにその一言は…」
「え、ごめん。なんか気に触ること言った?」
「気に触ることっつか…まぁ、気づいてねぇならいいけどよお」
「ちょ、気になるじゃん私何言った」
「なんでもねぇよ。んで、俺はお前が眠れるように話し相手として抜擢されたわけだな?」


無理矢理話を反らした倉持に少し不満を持ちながらも素直に相づちを返しておく。
すると倉持はしょうがねぇなあと言いながら私に付き合ってくれる様子を見せた。


「で?俺は何を話せばいいんだよ」
「んーと…あ、今年の野球部の話とかどう?」
「それならいくらでも語ってやるけど」
「ですよね。はいお願いします」


あい承りましたーなんて軽口を叩き合いながら二人して電話越しに笑いあう。

少し難しい野球用語も交えながらの倉持の話は少しずつ眠気を誘うにはいいもので、私の返答はだんだんふにゃふにゃと曖昧になっていった。


「ヒャハハ、眠くなってきたか?」
「ん…でも、倉持の話…ちゃんと聞きた、い…」
「いんだよ別に。つかお前が寝てくれなきゃ俺も寝れねぇんだからな?」


たしかに倉持の言うことはもっともだと寝ぼけた頭で考える。


「そっか…うん、わかった」
「おー。腹出して寝んなよ」
「ふへ、寝ないよー…」
「ふへって…あーじゃあおやすみ」
「うん。…ねぇ倉持ー」
「寝るんじゃねえのかよ」


もう寝落ち寸前なくせに、貪欲な私は一秒でも倉持の声を聞きたくて言葉を繋いだ。


「私、倉持のこと好きだよ…」
「…ぇ」
「おやすみぃ」


自分が何を言ったか理解しないまま、私はこれ以上倉持に迷惑をかけないようにと電源ボタンを押した。
夜はまだ長い、夏休みの今なら睡眠時間はたっぷりあるだろうと私は目蓋を閉じた。





夢の中で、倉持が私に笑いかけていた。
それがとても嬉しくて、あぁ私倉持のこと好きなんだって初めて自覚した。





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お久しぶりです管理人です。
今回はちょっと甘めに?仕上げてみました。
久々に書いたのでおかしなところは多々見つかると思いますが、皆さまのスルースキルを最大限活用していただけると嬉しいです。←

今回は主人公に振り回されるキャラで書いてみました。
つか倉持ってまだ2本しか書いてないのにそんな役回りばっかですね(笑)
このあともっちーは主人公に言われた言葉の意味を悶々と考え込んで次の日寝坊しかけたりします。
んでもって2学期に顔合わせずらくてどぎまぎしたりしてるとすごくおいしいですよね!(同意を求める眼差し)

要望あったら続き書きます。
無いとわかっていてここに書き込んでおきます

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