じゅうまんだ!企画 | ナノ






「その、橘くん」
「ん、なあに?」

名前と付き合いだしてしばらくして。
手を繋ぎながら帰っていると、名前がどこか言いづらそうに話しかけてきた。
今日は天気も良くて、夕陽が海に反射してとても綺麗だな…と考えていたところで、少し反応が遅れてしまった。
けど振り返った彼女はなぜか目線を逸らしていて、しかも見間違いでないのなら少し赤いような…?
もしかしてまだ手をつなぐのが恥ずかしいのかと手を緩めると、逆に名前の方から手を引き寄せてきたので、こちらが驚いてしまった。
今日は一体、どうしたんだろう?

「あの、えっと…言いたくないなら全然いいんだけど、」
「うん」
「…わ、私を好きになったきっかけって何だったの、かな…と…思いまして…」

最終的に囁くようなぼそぼそ声になってしまった名前は、それでもどこか興味深げにこちらを見つめてくる。
言いづらいような内容でもなかったので、こちらとしてはその上目遣いにときめくばかりで。
やっぱり名前と付き合えて幸せだなぁ、なんて感慨深げに心中で再確認しながら、聞きたい?と敢えて質問で返してみた。
そしたら名前はうめき声を短く上げながら、最終的には小さく頷いた。

「うーん、話すのはいいんだけどここじゃなんだしな…」
「あ、それならうちに来る?」

たぶん今の時間なら弟もいないし、となんの躊躇いもなく誘ってくる名前には、今までよくそんな純粋でいられたなと驚かされる。
たしか前に、そんなに気軽に誰でも彼でも家に上げちゃ駄目だって、怒ったはずなんだけどな…
これは信用されてるってことでいいんだろうか…
なんて、彼女の言葉に振り回されてばかりじゃ話が進まない。
ここは腹を決めて、彼女の家にお邪魔になることにした。








今年の桜前線は、素晴らしく素直な時期に咲き誇ってくれた。
なにかないかとぼんやりチャンネルを回していた時に、どこかの局の番組で評論家風のおじさんが言っていた言葉をふと思い出した。
その言葉の通り、桜の木はこれでもかとでも言うように咲き誇って、風が吹くとその可愛らしい色の花びらをひらひらと降らせている。
時刻はもうすぐ9時をまわろうかという時分で、正直ハルがもっと早く行動してくれればこんなに焦る必要もなかったのになあ、なんて今更言ったってどうしようもないことを考えてしまう。
まさか高校の入学式をサボろうとするなんて思ってもいなくて、普段通りに迎えに行った俺にも問題はあるんだけど。
まだ見慣れない通学路を2人で全力で走りながら、それでも視線は自然と桜並木に向かっていた。

「桜っ!きれい、だねぇ!」
「は?桜?」

あぁ…と淡白に返したハルも、今桜の雨に気づいたらしい。
視線が上に向いて、そのまま前へ返ることはなかった。
目指す高校はもう目の前に見えていて、あとは門までもう少しというところ。
徐々に近づいてくるゴールに少し安堵の息を漏らすと、ふとそこに無機物でない、人が立っているのが見えた。
しかもその人影は父兄というには背が低くて、良く見ると俺達と同じ、新入生の制服を着ていて。
もう少しで入学式が始まる時間だというのに、どうしてこんなところに一人でいるのか。
自然に気になった俺は、桜を見ていた視線を彼女に固定した。
やっぱり時間が気になるのか、そわそわと落ち着かない様子で何度も腕時計を確認しながら辺りを見回している。
真新しいナイロンのスクールバッグが、ぶら下げられたまま所在なさげに揺れていて。
不安そうに下げられた眉が、なんだかとても小動物を思わせて、頼りない。
思わずどうしたのか声をかけようとした時、彼女はこちらを振り向いて、パッと笑顔になった。
不安げな顔から変わったその笑顔は、なぜだかとても心に残って。
といってもその表情はすぐに怒ったように眉根を寄せたものになってしまったのだけど…。

「もう、遅いよ!」
「ごめぇぇぇん!!!」

どうやら俺達と同じように、時間ギリギリにやって来た子を待っていたらしい。
律儀な子だな、という感想を抱きながら、彼女たちの数歩先を走り去る。
体育会に入る前に、掲示板に貼ってあるクラス表を確認しないと…。
見たところ、今年もハルと同じクラスのようだ。

「今年もよろしく、ハル」
「同じクラスか」
「なんかちょっと残念そうじゃない?」
「そんなことはない」

2人でちょっと話していると、後から追いついてきて同じようにクラスを確認していた彼女たちから、悲鳴のような声が上がった。

「えーっ!?今年は名前とは違うクラスなの!?」

入学早々ツイてない!と叫ぶ友達を、まあまあと宥める彼女の姿に、思わず目線が行く。
遅刻したバツです、なんて思ってもみないようなことを言ってのけて、そのあとにまた遊びに行くから、なんてまたふわりと笑った。
笑顔が綺麗だな、と、今日2回しか見ていないけれどそう思った。

「おい、真琴」
「っえ、なに、ハル?」
「入学式。始まるんじゃないのか」
「え?わ、やばい!急ごうハル!!」

そのまま彼女たちの横を走り去った俺は、結局彼女の名前を知ることは出来なかった。







「で、結論から言うと、名前は意外と有名人で俺にもすぐ名前を知ることはできたんだけどね」
「…まさかあの男の子たちが橘くんと七瀬くんだったとは」

世間は狭いねえ、とどこかババ臭いことをいう彼女は、どこか神妙な顔で腕を組んで頷いていた。
ここは彼女の部屋で、俺は長くも短くもない話を彼女にし終わった後で。
名前はといえばどうしてこんな話になったのかを忘れたように、橘くんと私ってそんな時から接点あったんだね、なんて俺の好きなほわりとした笑顔で笑っている。

「そこからだんだん気になっていって、気づいたら好きになってたんだ」
「あ、うん…」
「それで少しでも近づけたらと思って、彼女が無償でやっていた相談窓口に相談しに行って、ずっと相談してたんだけど」
「…」
「本人は全然気づかなくて、俺はとても苦労したなぁ…」
「あの…その節は本当に申し訳なく思っております…」

あう…と顔を真赤にしながら両手で覆っている彼女は、相変わらず自分のこういった話は苦手らしい。
なおも続けようと口を開いたけれど、なんだかかわいそうになって続きを言うのはやめてあげることにした。
その代わりといってはなんだけれど、ほら顔を上げてと優しく促して、彼女の顔を隠している両手を掴んでやんわり外す。
相変わらず真っ赤なままだけど、視線はちゃんと俺を見てくれていた。

「でも、今は俺のことを好きでいてくれて、両思いになれて、本当に嬉しいんだよ」
「う…うぅ…」
「ね、名前は俺のこと、好きなんだよね?」
「うぅぅ…もちろんだよ…」
「言葉で言ってほしいなぁ」
「!?こ、これ以上の辱めは勘弁してくださいぃぃ!!」
「辱めだなんて」

そんなつもりなかったのになぁ、なんて呟くと、俺がへこんだと思ったのか、アワアワと慌て出す名前。
そんなだから、みんなから好かれるんだろうな、なんて納得して。

「す、すす…すきです…」

ものすごい小声で、まるで零れ落ちたかのようなその言葉に胸がいっぱいになって、思わず彼女を腕の中に閉じ込めた。

「へぁ!?あのっ橘くん!?」
「何回も言ってるでしょ、橘くん、じゃなくて?」
「うぅぅぅ…真琴、くん」
「よくできました」

ご褒美、とばかりに目の前にあった鼻先に小さくキスをすると、それだけで真っ赤になった名前はそのままオーバーヒートしたようにこちらへ倒れこんできた。
胸元にある林檎みたいに真っ赤な頭が、発熱しているかのように熱い。

「もうだめです…恥ずかしすぎて死ぬ…」
「それは困るなぁ…」

全くそうは思っていないかのような声音であっけらかんと言い放つと、名前は俺の腕のなかから顔を上げて、恥ずかしさからこみ上げたのだろう潤んだ瞳で俺を睨みつけた。
…だから、そんな顔で上目遣いしたって逆効果なのにね。
今度は鼻先なんて可愛いことはしないで、唇同士を合わせることにしてあげた。





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そらそらさまリクエストの、はないちもんめ番外編でした!
いかがでしたでしょうか?
この2人はそんなマンガみたいな奇抜な出会いからじゃなくて、ふつーにであってじわじわ気になり始めて…っていう甘酸っぱい恋愛しそうだなーと思っていたので、こんなお話になりました。
というか馴れ初めをまったく考えていなかったので、考えるのがとても楽しかったです!
ついでに、いつもと攻守を逆転させてみました!
だってマコちゃんシャチですもんね!
たまにはいいですよね!!ね!!(←強要)
こんなふうにこの2人はじわじわ進んでいくんだろうなと…やることはちゃんとマコちゃんがしちゃうんだろうなと。(夜中のテンションですみません…)

お持ち帰り・手直しの要求はそらそらさまのみ可能でございます。
なにかございましたらご一報ください。


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