じゅうまんだ!企画 | ナノ






「おっ!沢村のパン美味しそう!私のおにぎりと交換してよ〜!!」
「むっ!?そのおにぎりと!?仕方がないなー名字は」
「何様だよ沢村のくせに〜!」

とっくに早弁で消えてしまった昼食の代わりに購買でパンを買って帰ってくると、今日は珍しく早弁しなかったらしい栄純くんとクラスで人気者の名字さんが楽しそうにパンとおにぎりを交換していた。
栄純くんは久々に食べたおにぎりに感動して何故か涙を流していて、いつも元気だなぁと苦笑が溢れる。
それを見た名字さんはというと、「お前何泣いてんの!?頭打った!?」と冗談で周りを沸かせていた。
俺達のクラスの名字さんは、サバサバとしていて男女ともに人気がある。
そんな彼女は男の俺から見てもかっこいいなと思わせる不思議な魅力があって、気づけば最近、彼女を目で追う日々が続いていた。
邪魔だからとバッサリ切られている(らしい)髪型は快活な彼女によく似合っていて、その予想できない行動と相まって見ていて飽きないのだ。
そんな自己分析を脳内で続けていたからだろうか。
「あ!」と大声を出した名字さんが俺を指さしたかと思うと、すごい速さで目の前までやってきた。

「それ!」
「えっ!?」
「そのホットケーキパン!私大好きなんだよね!!」

それ美味しいよねと話を振られて、咄嗟に何度も頷く。
実は購買で余っていたから買ってきたもので、正直あまり食べたことはないんだけど、彼女に悪印象を持たれるのがどこか嫌で。
だよねぇ、と満足げに微笑んだ彼女を見て少し息をつく。
突然の接触は、心臓に悪すぎた。

「名字さん、あの、このパンでよかったらあげるよ?」
「あ、そんな横取りしたくて言ったわけじゃなくて!」
「うん。でもちょっと今日は買いすぎたかなって思ってたし、別に1つくらいなら大丈夫だよ」
「…いいの?」
「もちろん」
「ありがとう小湊!ちゃんとお金は返すから!!」

凄く心拍数が上がる笑顔で僕にお礼を言う名字さん。
それに動揺した俺はロクな返事もできないまま彼女にそのパンを差し出していた。

「あーあとさ、小湊も別に私の事下の名前呼び捨てでいいんだよ?苗字で呼ばれるのはなんか気持ち悪くてさー」
「じゃあ俺も名前で呼んだほうがいいのか?」
「煩いバカ村お前は黙ってろ!」

またもやドッと沸く教室の中で俺は、そう言われても困るなぁ、と思っていた。
気になる女の子の名前をおいそれと呼び捨てにできるほど、図太い神経は持ち合わせていないのだ。

「えっと…じゃあ、名前、さん?」
「さんもいらないんだけどなー。ま、いっか!」
「おーい名前ー。まーたあいつらが上級生と揉めててよー」
「えー、またー!?しょうがないな…いっちょ行ってやりますか!じゃあ小湊、沢村!パンありがと!!」

まるで嵐のようだったと表現するのがふさわしい去り方だった。
ありがとうと言われたことがどこかむず痒くて、なんだか顔が熱い。

「お、そうだった。小湊は昼飯ちゃんと買えたのか?」
「うん、ちょっと買いすぎちゃったくらいだよ」

それでさっき名字にやってたのか、なんて金丸くんと話をはずませる。
そこに栄純くんがやってきて、いつものように金丸くんと騒ぎ始めた。
いつも元気だなあなんて思いながらそれを眺めていると、窓際にいた男子が話し合っている内容をたまたま聞こえてしまう。

「あれ、あそこにいるのって名字じゃね?」
「え?…本当だ。しかもなんか揉めてるような…」
「たぶんあの相手、3年でも質の悪い山岡って奴じゃないか…?」
「うわ、普通に怒鳴り合ってるよ…あいつもよくやるよな…」
「あ、なんか分かれた…と思ったら…野球…?」
「場所取りで揉めてたのか…」
「でもなんか普通に遊び始めてっけど」

名字すげー、本心から漏れたようなその呟きに、俺もそう思う、と心のなかで同調した。
本当に名字さんは、色んな人と仲良くなれる人だなぁ。
俺も少しは見習わないと…
そう思い直して、トイレに行こうと教室を出た。
昼時の廊下は色んな人がいて教室以上に騒がしい。
用事を済ませて教室へ向かう途中、名字さんの後ろ姿を見かけて思わず声をかけてしまった。

「名字さん!」
「?あ、小湊か。もー、だから苗字はやめてってばー」
「ご、ごめん…名前、さん」
「むー、まぁ仕方ないか…許す!んで?どうしたの?」

少しふくれっ面だったのに一瞬でいつもの笑顔に戻った名字さ…名前さんに顔が熱くなるのを感じた。
本当に彼女は俺の動揺を誘う天才である。
特に話すことも決めていないまま話しかけてしまったため、頭を必死に回転させてさっき聞いていた会話の内容を話しの題材とすることにした。

「いやその、さっき上級生と揉めたって聞いたから、大丈夫かなって…」
「あー、あれね。うん大丈夫大丈夫!友達が上級生と野球する場所取り合っててさー、お互い野球したいんなら一緒にやればいいじゃん―!ってことで話つけてきたんだー」

本当になんで思いつかなかったんだろうね、あいつら。なんて笑顔の名前さんはどことなく楽しそうで、こちらも嬉しくなってくる。
楽しそうだね、と素直に言うと、満面の笑顔でうん!と返ってきて、それすら僕の心臓を早めるのだ。

「そういえば小湊って野球部だったよね。部活楽しい?」
「あ、うん。先輩たちは皆努力家でいい人達だし、同学年も張り合いがある人ばっかりで、俺も頑張らないとって思わされるよ」
「ほほー、いいねえ、青春だねえ!」

楽しそうに楽しそうに笑う名前さん。
でもねえ、知ってる?

君も僕に、青春をくれてるんだよ。







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