今日の授業も全て終わりクラス中がザワザワと騒がしい中小さく呟かれたその言葉は偶々だろうが俺の元に届いた。
「どうしよう…ぁぁぁでもあの本も欲しいんだよなぁぁ……いっそ両方?いや、そんなにお小遣い持ってない…うぁぁぁぁぁ」
今度はどうしたんだろうか。このところ彼女には楽しませてもらってばかりだ。また何事か面白そうなことをしてくれている。
「今日はどうした?」
「ん?あ、御幸くん!」
あの本読んだ?と先程とは打って変わったように明るい空気を纏った彼女を見ていると微笑ましい気持ちが生まれる。本当に表情がコロコロとよく変わるもんだ。さっきまで真剣な表情をしてたのに。
「まだ全部は読めてないけど…半分はいったかな」
「本当!?あの話スラスラ読めるよね!」
とても嬉しそうに笑う彼女にこちらも笑みが零れる。しかし、俺の質問は未だスルーされたままだ。
「んで、今日はどうかした?」
本日二度目の質問を投下すれば彼女は少し悩ましげに眉を寄せた。
「気になってる本が2冊あるんだけど、今日どっちか買って帰ろうと思って…どっちにしようかなーって。…あれ、もしかして一人言言ってた!?」
「おぉ」
「うわー」
またやってた!と叫ぶ彼女は本当におもしろい。バカではないが、何と言うか、見捨てられないと言うか。
「そうだ、御幸くんはSFと現代ものどっちがいいと思う?」
「SF、と現代?……現代かな」
「よし、じゃあそれ買って行こーっと」
「は!?いやいや今適当に決めただけだぞ!?」
「うん、いいんだよ。現代の話ね、野球ものなんだー。御幸くんの野球好きな気持ちが無意識に選んだんだよ、きっと!」
ニコニコ無害に笑う彼女の台詞に勝手に頬が熱くなる。野球好きって…いや好きだけど、面と向かって純粋に言われると恥ずかしいものがある。俺、ダセー。
「はっはっは。まぁおもしろかったらまた貸してくれよ」
照れ隠しの言葉に気づかない彼女は素直に うん! と頷いた。
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