メアド

「そう言えば橘くん、意中の子とは連絡先交換したの?」
「え…突然どうしたの?」
「いやぁ、突然思い至って」


皆さんこんにちは、主人公の私です。
何事かって突っ込みは置いといてね、いい加減書き出しのレパートリーがね、尽きてきたとか、そんなんじゃないから!
って、私はツンデレか!!
まぁ兎も角、只今放課後のジャンクフード店なわけですよっと!
偶々橘くんと会って、お兄さんちょっとお茶でもしばきに行きませんかって誘った結果です。
…いや、オッサンか私は。
普通に誘ったわ、普通にな!
大切な事なので二回言いました!まる!
べ、別に下心があったわけじゃないんだからね!
…だからツンデレか私!!
まぁ実際は、ついでに恋愛相談でもしてもらっちゃえって魂胆ですけどね?
え?なにか?問題あります?ん?

ポテトうまーしながら橘くんに冒頭のように訊ねたら、どうやらまだだったようで。
いやいや、今どきの学生としてそれってどうなの?遅くない?
でもなぁ、あの初な橘くんだからなぁ…照れて連絡先交換してないって可能性は十分あったわけで、私的には予想の範囲内です!


「よし橘くん、連絡先聞きに行きなさい」
「えっなに本当に突然どうしたの!?」
「イマドキを生きるイケてる学生が好きな子の連絡先1つ知らないなんてあり得ないから、むしろ橘くん絶滅危惧種なんでしょ?知ってる」
「え、あの…え?」
「それとも、そんなに好きな子に連絡先聞くの恥ずかしいの?」
「や、あの…確かに恥ずかしい、けど…」


そう呟いて赤面して顔を伏せる橘くん。
…乙女か!
可愛いから許すけどな!!
イケメンは何しても許される原理が適用されるからな!!
まぁ、確かに今の橘くんには高いハードルでしょう。
が、しかし!
私が何の対策も講じないと思ったら大間違いだぜ!!


「じゃあこうしよう橘くん、まずは私とメアド交換しようよ」
「!?」
「え…あ、嫌かな?嫌なら無理にとは言わないし、」
「ちっちがっ!!交換しよ、いや、交換してください!!」


半分冗談で口上に上げたら、思いの外橘くんが食いついた。
お、おぅっふ…
どうしたんですか橘さん…


「あ…ご、ごめん…」


私が驚いて軽く引いたのを、違う意味で取ったらしい。
橘くんは凄く申し訳なさそうにしょんぼりして、立ち上がっていた体勢から元に戻っていった。
うーん、なんというか。


「そんなに好きなんだねぇ」
「っ!?えっ、えぇっ!?」
「いやぁ、橘くんにそんなに好かれてる女の子は幸福者だなぁ」
「!?」


なんでか目の前で混乱している橘くんがおもしろい。
照れちゃってもう、かわいいなぁ!
だってさ、さっきの食い付き見たでしょう?
まさか橘くんが、女の子のアドレスを欲しがるような、肉食系男子な訳ないし。
それくらい今までの付き合いでわかりますよ!
だから私が思い至った答えは、好きな女の子とアドレス交換したいけど、恥ずかしくてできない橘くんが、アドレス交換の練習をしようと、私の提案を私に却下される前に、慌てて肯定したと。
いやぁ、青春ですなぁ!!


「はい、これ私のアドレスね。赤外線できる?」
「あっの、!!あ、うん、できるよ!!」
「よし、よかったー、メアドって打つの面倒なんだよねぇ」


ニコニコしながら携帯を橘くんに向けた。
相変わらず慌てた様子の橘くんは、スマホを落としそうになりながら、私の赤外線を受信した。


「よっし完了!」
「あ、うん!ありがとう!!」
「うん?いやいや、それは意中の子と交換してから言ってほしいかな」
「あ…うん、そう…だね」
「…?あ、そうだ。橘くん、ついでに私にもアドレス送ってよ」
「えぇっ!?」
「!?びっ…くりした…」
「あ、ごめんね!!びっくりしちゃって…」


なにやら今日の橘くんは様子がおかしい気がする。
驚きすぎっていうか、どもりすぎっていうか…
どんだけ照れ屋なんだろう、橘くん。


「ほら、連絡先知ってたら今より恋愛相談できると思わない?」
「あ、あー、なるほど…」


なんだか赤い表情の橘くんが、俯いてぽそりとなにかを呟いた。
周りが五月蝿すぎて聞きづらかったから確かじゃないけど、「勘違いしそうになった…」って言ってたような?
失礼だなぁ、私そんな悪女じゃないやい!
恋愛相談してきてくれた子達の幸せを願ってるんだからね!!
取ろうとか考えたりなんかしませんよ!!
まぁそう言おうと口を開いたら、同時に橘くんが顔を上げて例の悩殺スマイルを見せたので、思わず口を閉ざしてしまった。


「うん、じゃあ、俺も送るよ。赤外線でいい?」
「え、あ、うん…」


いつもの癖で素直に携帯を持ち上げると、橘くんから赤外線が送られてきた。
名前と数字が4つ…たぶん誕生日だろうね、それを適当に混ぜ合わせたようなメールアドレス。
なんだかそのシンプルさが橘くんらしくて、思わずほっこりしてしまった。


「そうそう。なんだ、できるじゃん橘くん」
「あはは…」
「じゃあその調子で好きな子のも聞いてきなよ!明日実行ね!明日結果聞くから!」


私が満面の笑みでそう言い切ると、目の前にいた橘くんは苦笑を溢して1つ頷いた。










翌日。
お昼休みと放課の間の丁度まん中にある休み時間に、私は橘くんのクラスを訪ねた。
大声で橘くんを呼び出しても女子から睨まれないのは、この間の噂が既にここまで広まってるってことで。
…これは…橘くんの未来の彼女さん、苦労しますな…
呼ばれて戸口までやってきた橘くんは、いつもと変わらず私に悩殺スマイルを向けてくる。
うん、もう君のその悩殺スマイルの無駄遣いには慣れてきたかな!
だから私に向けるのやめようね!!


「どうしたの、羽月さん」
「ん?あぁ、昨日の結果、聞こうと思って」


どうだった?
訪ねて首を傾げると、橘くんは少し間を空けて、あの笑顔とピースを私に返してくれた。


「おっ、その顔は…無事もらえたんだね!!」
「ふふ、うん」
「やったじゃん!ってことは…」


ふっふっふ…と含み笑いをする私を不審に思ってか、橘くんが私の名前を呼びながら覗きこんでくる。
バッチリ橘くんと目線を合わせて、私は高らかに宣言した。


「じゃ、橘くん、次のミッションです!!」









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