相談


「ありがとう巴絵!あんたのおかげでまた彼と近づけそうだわ!」
「いーえー、お役に立ててなによりですよ」

じゃあねー!と明るく手を振って姿を消した友達を、こちらも緩く手を振って見送る。
彼女からの相談はもう数え切れないほど、正直内心ではいい加減ひっつけよお前ら、と思っていたりいなかったり。
いや、まあ正直思ってますけどね。
何でこんなことになっちゃったかなあなんて思い返しても全然理由はわからない。
気づけば私は、恋愛事ならなんでも解決できちゃう凄腕恋愛相談窓口になっちゃってたのだ。
別になんでも解決できるわけじゃないんだよ、ただ話を聞いて本とか漫画とかで吸収した知識で皆にアドバイスしてるだけなのに。
大体、恋愛相談なんていいながら、みんなただ自分の不安を聞いて欲しいだけなのだ。
私がいくらアドバイスしたって、実は本人の中ではもうどうするか決まっていて、ただ話を聞いて欲しいだけ、その為に私のところへやってくるのだ。

「はぁ〜、やっかいなもんだなあ」
「お疲れ様、羽月さん」
「どうもー」

いつもの調子で何気なく返事を返してから、ん?と気づいた。
誰だ、今の声。
明らかに女子のトーンの高さではなかった。
私の周りの女子が声低めの子が多いからとかそういうんじゃなくて、そう、いうなれば男子の…
不審に思ってため息を吐くために俯きがちだった顔を正面に上げると、そこにはなんと、橘くんがいたのだった。
橘真琴くん。私が通っている岩鳶高校の1年生、ちなみに同級生だ。
大きな身長と幅の広いがっしりした体格に反して、ハの字眉とタレ目の優しげな表情がとても印象的。
その上性格は世話焼きで、成績は悪くなく、身体能力も高い。
よく言う好物件ってやつだな、うん。
どうして私がこんなに彼のことを知っているかって言うと、悲しいかな、これも私の日頃の活動の賜物なのである。
上述したとおりの好物件である橘くんはそりゃあもうモテる。
告白する人が多いのか少ないのかは私の預かり知るところではないが、彼へ想いを寄せる女子生徒からどれだけの数相談を受けたやら、数えるのも面倒くさい。
そういう避けられない理由により、私は彼のことをストーカーのような内容でいいのならいくらでも知っていた。
実際こんなに間近で見て会話したのは初めてですけどね!

「た、橘くん…?」
「ん?どうしたの、羽月さん?」

どうしたの?じゃねーよこの…このイケメンめ!
そんな優しげな声音で小首を傾げられてもきも…ちわるくないのがイケメンクオリティってやつか!そうなのか!
ともかく、ファーストインパクトとしての橘真琴は心臓に悪いやつ、であった。

「いや、あのー、えーっと…あ、どうして私の名前…」
「あぁ。それはね、クラスの女の子たちが君のこと話してるのをよく聞くから…羽月さんこそ、よく俺の名前知ってたね」

にこにこと人畜無害そうな笑顔がとっても心臓にキます。思わずときめいてしまいそうです。
そうか、みんなこういうところにおちていくんだな、納得するわー。
これはまさにあれだよね、女子キラーって感じ?
なんかもうオバサマキラーとかそういうんじゃなくて女の人ならだれでも落とせそうだよね!偏見こもってるけど!ごめんね橘くん!
ちなみに私が君のことを知っている理由は心中で説明したけど本人にはあまりにも説明しづらいから聞こえなかったことにさせてもらいますね!

「ところで橘くん、私に何か用があるのかな?」

用がなくて私なんかに声を掛けたんだったら、彼は相当暇しているのだろう。
まぁそんなことはないと思うので確信を持って尋ねているわけだけれども。
当の橘くんはというと私の突然の方向転換を気にした様子もなく、ゆっくりと口を開いた。

「あー、うん、まぁ…そう…なんだけど…」
「ん?」

なにやら突然はっきりしない返答をしはじめた橘くん。
今までのんびりした雰囲気ながらあんなにはっきり受け答えしていたので、対比でとっても違和感です。
どうかしたのかと少し影になってしまった彼の顔を覗きこむと、同時に彼は顔を上げて…
訂正。
真っ赤になった顔を上げて、私にこう宣告したのだった。

「あの、俺の恋愛相談も、受けてくれないかな?」
「は」

なんですと?




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