次の日、要するに入学式。恙無く式は終了、のち教室へ入り今後7年間のルール等の説明が教官からあって、自己紹介のようなものもないまま今日一日の予定は終わった、はずだった。


「…今、なんて?」
「何度も言わせるな。新入生入学祝賀の会があるから用意をしろと言ったんだ」


昨日私にあんまりな挨拶をしたあの銀髪男が昨日と同じ深緑と赤の軍服…というか王牙の男子制服を来て私の部屋へ来たかと思うと、頑然にそう言い放った。そうは言われてもそんな話聞いてないし、用意をしろと言われても持っている服は女子の制服とそのスペアくらいのものだ。ドレスなんて用意しているわけがない。
それに、なんやかんやで誤魔化そうとしてるが言い換えればただの立食パーティだろう。別に私が参加しなくても誰かに不利益が生じるとも思えないし。


「新入生は絶対参加が義務付けられている。ドレスはクローゼットの中にいくつか入ってあるはずだ」
「…わかりました」


参加を断る気満々だったのに、どうしてバレたんだろうか。それとももともと言うつもりだったのか、どっちかか。まぁドレスも用意されてるなら別に行ったって構わないんだけど、どうしてそんな行事がこんな軍直属の学校にあるのかが不思議である。
いや、そんなことは今どうでもいいだろう。ともかくも彼に言われた通りクローゼットの前に立つとひとりでにその扉が開いて中から色があふれだした。…すごい数のドレスが1.5mほどのクローゼットに押し込められている。昨日も思ったがよほどのvip待遇を施されているようだ。とはいえこんなにあっては選べないしそもそも選ぶ意思がない。こんな服を着こなす自信もない。ということは、だ。


「制服じゃダメなんですか」
「愚問だろう」
「ですよね」


選択肢が1つ消えた。残ったのはたった1つの方法だけだ。「じゃあ、すみませんが適当に一着選んでもらえません?」私がクローゼットを指してそう言うと、怪訝そうな目をした彼と目が合った。なんだろう、何が不思議なんだろう。
少し見つめ合っていると、彼の方から視線を外して嘆息を溢し「そこの青」とだけ呟いて踵を返してしまった。言われたドレスを手にとれば派手すぎずシンプルすぎず、なんというか色んな意味で目立たなさそうなドレスだった。
うん、なんとなく彼とは趣味が合う気がするな、なんて全く根拠もへったくれもない感想を胸に抱きながらドレスを着てこれもクローゼットに入っていたストールを適当に手にとる。
洗面所へ向かえば自動的に扉が閉まり、そこに立つと今度は化粧品のセットまで出てきたものだから驚いてしまった。もしかして娘から陥落させよう作戦は本当に実行されているのかもしれない。いや、これもどうでもいいことか。
パーティらしいしなぁと自分が知っている程度の化粧を施して姿を鏡で確認してから玄関に立つと、外側から扉が開かれた。しかしそこにいたのはどう見ても正装をした銀髪の彼で、驚いて動きが止まってしまう。


「…」
「どうした。はやくしろ」


正直どうして彼がそんな格好なのか、軍服でないのは何故なのか、問いたいことはいくつかあったがそれは聞かなくても生きていける程度の話だろう。


「すみません。行きましょう」


彼にそう告げて各部屋毎に止まる透明なエレベーターに乗り込む。横へ移動した後降下を始めた昇降機の中で、気が乗らないし、必要なだけ参加したら自力でも部屋に帰ろうなんてぼんやり考えた。







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