ウィン と目に見えない透明なバリアが消えて私は王牙学園の土地へ一歩踏み出した。今日からここが私の居住空間である。
父が反政府軍の筆頭であるせいで私はこんな学園への入学を余儀なくされてしまった。が、別に父を憎いとは思わない。父は父の思想を机上の空論からこんな、娘まで監視下に置かなければいけない危険分子の一派にまで育て上げたのだ。その点ではすごい人だと思う。まぁ巻き込まれた娘から言わせてもらえれば堪ったもんじゃないけど。


「今日からここがお前の生活する寮だ。お前には一切の自由を与えられていない。学校外で用がある場合はお前の世話係の兵に言え」
「わかりました」


事務的な説明のあと通された部屋はvip待遇といっても差し支えない程広く豪奢だった。なんだろう、娘から陥落しようって腹づもりなのかな?


「…意味ないのに、ご苦労様ですね」


先程までいた案内役の兵士もいない今、私の声はただ虚しく広々とした部屋に木霊するだけ。父は今や身内の私であっても止められない位置まで来てしまった。大体携帯さえ支給されていないというのにどうしろと。だって私は、この身ひとつでここに来たのだ。それにもし所持品があったとしてもさっきあった検問所ですべて取り上げられていただろう。


「なんて殺風景な部屋」


辺りを見回してからぽつりと呟く。いいところなんて地上25Fからの夜景くらいか。それ以外にこの部屋にあるのは私と勉強道具と必要最低限の家具、終了。…あぁあと1つ、学費や寮費やその他諸々…必要な費用は全て軍がもってくれることは今回の利点かも。フラりと歩き出してボフンとキングサイズのベッドに背中から倒れ込む。はい自分思考停止、やめやめ。どうせあれこれ考えたって私は囚われの身なんだから。今までみたいに生活してれば3年くらいかるーく過ぎる、はず。たぶん。うん、大丈夫だ。


「…寝よ」


まだ宵の口だけど食欲はないし、明日の朝食で夕飯の分もエネルギーを摂取すればすむ話だろう。もそもそと布団に潜り込んで目を閉じた。けど、やたらと柔らかいこのベッドは慣れなくて眠れなくて、やっぱり私の頭は回転を始めてしまうのだった。
そんな時、シュンッと音がしたかと思うと律動的かつ攻撃的な足音が部屋に踏み入ってきた。腕で上体を起こして玄関の方へ目を向ける。


「…誰」
「なんだ、目覚めていたのか」


そこにいたのは目付きの悪い銀髪の男だった。ガーネットみたいな紅い眼が特徴的である。


「大雲川佑、今日から俺がお前の監視役だ。なにか用がある場合は俺を通せ。いいな」


疑問形で閉じる筈の形容詞を強調のために使ったその男は言うや否や先ほどの扉を通って消えた。支えを外してまた弾力のあるベッドに身を沈める。どうでもいい、私の生活を問題なく終わらせてくれるのであれば誰でもいいのだ。


「あ、名前聞いてない。…いいや」




そうして私の王牙学園での生活は幕を開いたのである。












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