朝練の時俺にぶつかってきたのは昨日の猫娘だった。なんでか俺の名前を知っていた。ここまではいい。ついでに、一般人からするとどうやらこいつはただの黒い猫にみえるらしい。突然土手から転がり落ちた俺を心配してか、みんなガヤガヤ集まったかと思うと好き勝手に頭を撫でては俺が飼ってるのかとか聞いてきていた。うん、ここまでは許容範囲内だ。そこまではいい。


「マサキマサキ、そこはx=2だよ?」


なんでこの女が教室までついてきているのか、が一番の問題なのだ。たしかにこいつは猫に見えるらしいから?居たって俺が猫に懐かれてるようにしか見えないだろう。現にクラスメイトたちはどこかソワソワしながら―おそらくこいつに触りたいんだろう―俺たちを微笑ましげに見つめてくる。なんとかこいつを追い出したい俺は最後の望みを教師に託したのだが、次の教科は数学のおばあちゃん先生で、大の猫好きと学校中で認識されるほど猫を溺愛しているような奴だったもんだから追い出すどころか俺たちの担任にこの猫にクラスで居場所をつくってやってくれなんてありがた迷惑なことまで決めてくださった。まじふざけんなババア。担任も元担任だったばばあにほだされてんじゃねぇよ。
で、今、数学の時間に、不運なことに窓際だった俺は窓の枠のとこに座ってのんびりしているこの猫娘から数学の添削を受けていると。そういうわけである。
正直に言おう、すげぇめんどくせぇ。そして俺より頭のいいこいつにイライラも溜まってくる。俺そんなに頭悪くないはずなんだけど、なにこいつ。


「あぁもう…うっせぇよお前」
「珠洲」
「…は?」


小声で文句を言うと、目の前の猫娘はよくわからん単語を返してきた。おいおい言葉のキャッチボールって知ってるか?ま、俺はキャッチボールよりドリブルのほうが好きだけど…ってそうじゃなくて。


「なに?すず?」
「そう、私の名前」


ニコニコ笑って人のシャーペンを奪い取ると、なんか丸い字で俺のノートに珠洲と書いた。…はぁ、珠洲、ねぇ…


「…で?」
「ん?」
「これ教えて、どうして欲しいわけ?」
「どう…?いや、お前って名前じゃないから、名前教えただけだよ?」


猫みたいな口をして、目の前の猫娘はそう飄々と宣った。知るかよお前の名前なんか。


「あぁはいはい珠洲ね、珠洲珠洲」
「…うん!!」


適当に相づちを打っただけなのに、やたら嬉しそうなこの猫娘はゴロゴロと喉を鳴らしながら腕に擦り寄ってきた。あ、おい!ノート写せねぇ!!


――キーンコーンカーンコーン


そんな俺の図上で、間抜けな音を垂れ流しながらスピーカーが授業終了の合図を出した。
…もう、次の教科担当がこいつを追い出してくれることを祈ろう。












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