夕日が差し込むようになって少し肌寒く感じる時間になってきた。
ーーーわけですが、今の私には全く関係ないんだよね!
何でかって?
そんなの…

料理の手伝いさせられてるからですよ!!!!!竈の火ってあっついんだね!とっても!なんだっけ、遠赤外線ッて言うの?ほんともうじりじり焦がされるようなこの熱がもう…勘弁して下さいってかんじで…
なんか確証ないけど、絶対これ焼けてると思うんだよね。
日焼け的な意味じゃなくて、肉として焼かれてる的な意味でな!


「あつー…」
「おい、それが終わったらこちらも手伝え」
「あ、はい!」


入口近くに竈があるせいで、皆さん場所的に向こうに居てらっしゃって会話が遠いっていうか、皆熱くないの?ねぇ、熱くないの?
もしかしてこれが嫌だからって私に無理やり投げたとかじゃないんだよね?ね!?
まあ、もうお米も炊けそうだしということで(因みに竈でお釜でお米なんて炊いたことないので数日前に千鶴ちゃんに言葉でご教授いただきました。ありがとう私の女神)、竈から目を離して呼びかけられた隊士さんの方へ向かう。
近づいて声をかけなおしたら、そこの野菜を切れと仰せつかった。
…切るのか、そうか…今まで家庭科の調理実習で包丁持ったら皆に止められてきたからまともに持ったことないんだけど…ま、大丈夫でしょう!


「わかりましたー」
「…待て、お前今から何をするつもりだ」
「へ?今この葱切れって…」
「お前は包丁を持ったことがないのか!?」


それまで包丁で仕事をしていた平隊士さんに目をひん剥く勢いで怒られました。
なんでだ。ただ包丁の刃の背中の部分?っていうの?を掴んでただけなのに!
あと確かに包丁持った回数はとっても少ないですけどね!


「普通はこう持つものだろう!?」
「おー!なんかその持ち方見たことある!」
「「「…」」」


私がそう言うと、それまで周りで作業していた隊士さんたちが全員私を見つめてきた。
なんていうか乙女ゲームとかである「きゃっそんなに見つめられたら恥ずかしいわっ!」的な視線じゃなくて、「おい、こいつ大丈夫かよ…」みたいな憐みの…
や、やめてください!そんな目で私を見ないでください!
まじつら!


「なんか…すみません…」
「いや、その…俺も、悪かった」


私に葱を切れと言ってきた人がむしろ申し訳なさそうに誤った。
うおおおおこれは!心臓に!くるものが…!
本当にごめんなさい!これからちゃんとお料理も修行するようにしますから!
さすがに瑞希ちゃんみたいな料理は作らないから大丈夫だと思ってたんです!慢心してましたすみません!


「…はぁ、教えてやるから、そこにしゃんと立て」
「え…」
「どうした、早くしろ」
「…!はい!」


どうやら、自分で言った内容がそれほど特別なものなのだと気付いていなかったらしい。
包丁の持ち方から教えてくれる彼は、今まで遠巻きに見てきていたのはなんだったのかと思うほど自然な様子で私に接してくれていた。


「そこで左手を添えて…ちがう!お前は指ごと切る気か!?」
「それは嫌であります隊長!」
「はぁ?ふざけてっと叩き切るぞ」
「ごめんなさい」


なんだろう、殺伐だけどウキウキライフ、みたいな?
なんだか楽しくなって、緩む頬を抑えられない。


「何が楽しいんだお前は!」
「えー?いやぁ、今まで皆さん喋りかけてくださらなかったもんですから…とっても嬉しいんですよう」
「はぁ!?なっ何言ってんだお前は!あとそのしゃべり方は女々しくて気持ち悪いぞ!?」
「気持ち悪いとは心外な!」
「そこは怒るべきところなのか!?」


二人して大声を上げすぎて息も絶え絶えである。不毛だ、この喧嘩は不毛以外の何物でもない。
私は一つ深呼吸をして気を落ち着かせると、今まで腰を落として戦闘態勢だったのを解いた。
そもそも私は小姓としてこの組に置いてもらってるわけだし、女だってバレちゃいけないわけだ!うん!だから落ち着け自分!


「まーまーこの話はとりあえず置いときましょうよ先生」
「誰が先生だ、誰が」
「えー、だって私は貴方の名前知らないですし」
「本当に…お前…いや、なんでもない。俺の名前は久米部正親だ。あんたは確か新しく入った小間使いだったか?」
「…小姓です」
「なんだ、あんま変わりねぇじゃねえか」


さっぱりと大きく笑う久米部さんの清々しさったら。怒るに怒れねぇじゃねえか!!
もういいよと、私は彼にくるりと背を向けた。なんだかこの会話を続けるだけとっても不毛である気がして、面倒になったのだ。


「あっおい!」
「私、隊長たちに配膳してきますね。あ、因みに私は"おい"ではなく、文川澪ですから、今度からはそっちで呼んでくださいね!」


しくよろ!!と指二本を額から彼らに飛ばして、私は既に分けられていた隊長格用の膳に手を掛けた。



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久米部正親さんは、実際新選組にいらっしゃった隊士さんです。
が、新選組はわからないことが多く、彼が何番隊所属なのかはわかりませんでした。
ので、今回は十番隊に入っていたということにさせていただきます!!
これは!フィクションだから!許されるよね!!


すみませんでした!


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