千鶴ちゃんが開けた障子の隙間から流れ込んできた朝の冷たい空気に、私は一人目を細めた。彼女の肩越しに見える雲は薄灰色で、吹き抜ける風も強い。視界の端で、千鶴ちゃんが羽織を手にしたのが見えた。

さて、私がこの世界に飛ばされ千鶴ちゃんと新選組に厄介になって一週間。私たちにはなんと基本体制として自由な生活アーンド専用部屋がご用意されてました!
制約として"男装をしないといけない"わけだけど、自分の身を守るためなんだから仕方がないと割りきってます。女が新選組屯所にいるのはおかしいしね。つか寧ろ男装とか万々歳だからね。着物とか!着てみたかったし!!
どうやら千鶴ちゃんは違う理由も考えてたみたいだけどノータリンな私にはわからないのでスルーしたよ!能力発動しましたよ!

だが、
土方さん直々に引きこもりのお許しも出てるし♪
なーんて安楽的なことは、私に限って言えば言えないのだった。なんでかって?それは前のお話にも繋がってるわけですよ。
ほら前の話で私誰かの小姓になる〜みたいなこと言ってたでしょ?あれです。ネックはあれです。
なんと、私は【新選組】の小姓と言う謎の位置づけになりました。誰かの、じゃないんだよ!【新選組】の、なんだよ!要するに使いっ走りじゃね?とか言わないでね!!私も考えないようにしてるんだから!!


「男装が嫌なんて、言ってられないよね。……ちょっと面倒だけど、これは絶対に必要なことだもん」


不意に千鶴ちゃんがそんなことを呟いた。視線と手が刀に向かって、固定される。少しの間そうした後、私の方を向いた。何か話そうと口を開いたのだけれど、ちょうどその時、複数の隊士の人たちが私たちの前を通っていって。


「……澪ちゃん、私…」
「うん、言わなくていいよ」


千鶴ちゃんが言いたいことは言われなくてもわかっていた。隊士の人たちの目がどことなく冷たいと言いたいんだろう。いきなりひょっこり現れた新参の小姓が二人一部屋とはいえ個室をもらっていることに不満を持っていることは知っていた。
でもさ、仕方ないよね?決めたの土方さんだよね?あの泣く子も黙る鬼の副長サマですよね?
私はそんな風に考えている。じゃないと、いくら能天気な私でもあの視線にはグサッとくるものがあるしね!

仕事を手伝おうにも何も言ってこないし、ここ一週間でやらされたことっていったら家事のお手伝いくらいのもんだった。そんな私たちが隊士の人たちから名誉挽回してもらえるなんて、少なくとも思っていない。
でも日々幹部の皆に見張られている生活が隊士から見ると可愛がられているように見えるらしい、と気づいたのは最近。
千鶴ちゃんは屯所の人たちとも仲良くしたがってるけど、満足に部屋も出してもらえないんじゃそれもできない。部屋から出れないってことはお父さんも探しに行けないってことだ。日に日に千鶴ちゃんが悄気ていくように思えて、終に私の耐久力が尽きた。


「千鶴ちゃん、外に出られないか誰かに頼んでみよう!」
「え!?で、でも、」
「大丈夫だって!なんと、今あの土方さんは大坂に出張中だよ?鬼の居ぬ間にって奴だよ!?」


そういえば千鶴ちゃんも納得したのか、こくりと1つ頷いた。
よし、笑顔が戻ったね?女の子は笑顔が一番!!…しかし可愛いなあもう…襲ってもいい?オジサン我慢できなそう…っていやいや!!なに考えてんだ私!?しかも私女子高生だぜ!?てゆか今は話が違うでしょ!正気に戻れ私!!


「一緒にいても活路は一択になっちゃうから別行動にしよう。屯所内探索と、誰かに頼んでみる人。どっちにする?」
「じゃあ…私、誰かに聞いてくるね!」
「ok!じゃあLet's goだね!」
「れ、れっつ?」
「いざ行かん!!って意味!」
「あ、うん!れっつごお!」


そうして私たちは部屋の前で「また後で」と別れた。千鶴ちゃん、隊士さんたちに襲われないでね!





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