試作品試食会
ケビン(学生)
ジェロニモ(初代/教師)
我が校の家庭科教師は男である。他の学校と比べると珍しいことだが、この家庭科教師は 料理・裁縫なんでもこい な、何処に嫁に出しても恥ずかしくないお人であった。
「ジェロニモ先生、」
「ケビン、いらっしゃいずら」
家庭科室に訪れると、待ちわびていたかの様に、ジェロニモ先生は俺に微笑みかけた。褐色の肌のジェロニモ先生は、いつも黄色のエプロンを身に付けている。可愛らしいヒヨコのアップリケがトレードマーク。
「今日は何を作ったんだ?」
「へへ、自信作ずらよ…!」
家庭科部の顧問でもあるジェロニモ先生は、毎回部活で作るお菓子の予習をしている。その予習したお菓子を試食するのが、俺の放課後の楽しみだ。自信作だと豪語した今回のお菓子は、ジェロニモ先生特製の黒胡麻プリンと 可愛らしいハート型や星型のクッキーだった。
「どちらかを部活の課題にするずら。どっちが美味しい?」
きっと美味しい方を作らせるつもりなのだろう。ただでさえどちらも美味しいのに、食べている俺を 頬ずえついたまま見つめてくるジェロニモ先生のせいで、あまり味わえない。あぁもう、見つめないでくれ……!
「ケビン?」
「あ、あぁ……。クッキーは この間も旨いの作ってただろ?今回は、プリンでもいいんじゃないか?」
「あ、そういえば 作ったずらね。いやぁ、忘れてたずら……」
自嘲気味に笑ったジェロニモ先生。頬を掻いて、恥ずかしそうに赤らめた。
「それじゃあ、次の部活は黒胡麻プリンずら。ありがとう、ケビン」
「いや、俺こそ、食わせてもらったし……」
口ごもりながら、慌てて目線を反らした。こっちこそ気恥ずかしくなってくる。
「そうだ、オラにも一口食べさせてほしいずら」
「え、」
「オラ、今回はあんまし味見してなくて……。どんな出来ずらか、一口、ね?」
ニッコリ笑ったまま、ジェロニモ先生が口を開けた。自然と目も閉じ、大人しく 俺がプリンを食べさせるのを待っている様だ。……おいおい、マジかよ。そんな表情 かなり卑怯だと思うんだが。まるでキスを待っている時の表情のように、口を開けている先生に 堪らなく悶え、俺は震えるスプーンでプリンを掬い、恐る恐る 先生の口元へはこんだ。
「せ、先生…… 入れるぜ…?」
「んぁ……」
漏れる声がどこか性的で、思わず カチッ とスプーンが 先生の前歯に当たってしまった。それでも気にせず、先生はプリンをモグモグ食べながら「結構美味しいずらね」と呑気に笑う。
「……良かったな、先生。おいしくて」
まだ少しドキドキしてる俺は、スプーンと睨めっこをし、そのままもう一口食べた。本当に料理が上手い人だ。
「あ、ケビン……」
「ん?」
何かに気付いたらしい先生が、俺を見て 口元に両手を寄せた。可愛らしい仕草に目を奪われながら、俺は聞く。
「オラ、ケビンと間接キスしてしまったずらね……!」
先生の言葉が、頭の中に響き渡った。『間接キス』。まるで小学生の様に、その言葉を聞いた途端、俺はガタガタッと椅子から転げ落ちた。思わず目の前に座ってたジェロニモ先生も 慌てて駆け寄ってくる。
「大丈夫ずらか?!」
「おぅ……」
「ケビン!!?」
家庭科のジェロニモ先生は、天然が入った かなり可愛い先生だ。
「ケビン、そんなにオラと間接キスが嫌だったずらか……?」
あぁもう、そんな悲しそうな顔をしないでくれ!寧ろウェルカムだし、そもそも 年上のクセに こんなに可愛いだなんて全く卑怯だ。
「全然、気にしてねぇし……」
今の俺は、これを言うだけで精一杯だぜ。
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