機嫌を直すショートケーキ
「万太郎、」
「……」
ソファーに座る俺の脚の間に座る万太郎は、頬を膨らませたままそっぽを向いている。
「おい、万太郎」
「……なに?」
無理矢理顎を掴んで此方に向けると、如何にも機嫌が悪い万太郎の豚面が俺を睨んだ。
「謝ってるだろ、悪かったって」
「はん!そんなんじゃ許さないんだからね!せっかく楽しみにしてたのにぃ……」
万太郎が楽しみに取っておいたショートケーキ。見かけた俺が、勝手に食べてしまったのだ。詫びに代わりのショートケーキを買って来たのだが、なかなか手を付けてくれない。
「謝れば良いと思ってんでしょ!僕ちゃん、そんなに甘くないんだからねっ」
「……甘ぇ」
「は?」
「万太郎、お前は甘ぇんだよ」
「何言って……んんっ」
開いた万太郎の唇に、鉄仮面を外した俺の唇が繋がる。マスク越しの万太郎の唇を抉じ開けて、ヌルヌルと舌を侵入させた。身体を捻らせた万太郎が、俺の胸をタップする。
「初だな」
「う、うるさぃ……」
ゴシゴシと唇を拭いやがったので、もう一度襲いかかる。わたわたと手足をバタつかせ、「もうやめて」と途切れがちに言われたので、名残惜しく離してやる。
「拭うからだ、バカ」
「だって……もぅ……ハァ、ハァ……」
「息、切れてるぞ」
「うっさいやぃ……」
万太郎の身体を支えたまま、目の前のテーブルに置いていたショートケーキに目をやる。手を伸ばしてフォークを掴み、それを使って ケーキを一口分切り取ると、それを万太郎の口元に持っていった。
「ほら」
「……何?」
「ショートケーキ、ここの店のも美味いんだ。俺のオススメ」
「ケビンでも ケーキとか食べるんだぁ……」
心底意外そうな顔をしやがったけど、今は 万太郎の機嫌直しが最優先だ。互いの唾液で 未だテカテカしている万太郎の唇にケーキを押し付けると、おずおずとタラコ唇が開いた。目を伏せたままケーキを味わうその姿に、やわやわと胸が疼いたところ、俺は本当に物好きな野郎だと思う。
「……美味しい」
「だろ?」
「ねぇ、もっとチョウダイ」
俺は皿ごと持つと、それを万太郎に渡そうとした。しかし皿を受け取らない。
「万太郎?」
「ケビンが食べさせてよ」
「は?」
「いいじゃん、僕ちゃんのケーキを食べたのは君なんだから。少しぐらい 」
機嫌を直してくれたのは嬉しいのだが、態度が一変しすぎなのでは……?俺は小さく笑うと、子憎たらしく口を開けて待ってる万太郎に、小さくカットしたショートケーキを再び食わせた。
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