血盟夫婦
(ver. 夫婦の日)
寒くなってきたので、スカーフからマフラーに変えてみました。
「お早う、ニンジャ!」
朝食を作っていると、珍しく早く起きてきたブロッケンJr.が キッチンに顔を出した。
「お早う。今朝は早いでござるな」
「おう。寒くて目が覚めちまったよ…」
コップ一杯の水を飲むと、ニンジャの首元に目を向けた。
「あれ?スカーフじゃねぇの?」
「あぁ。拙者も今朝は寒かったからな……。マフラーに変えてみたでござるよ」
「へぇ……」
「ブロッケン、風邪引くなよ?」
「大丈夫!オレ 体丈夫だから!」
ニッと笑ったブロッケンは、「暇だからバッファ達起こしてくるー!」と二階へ駆け登って行った。ブロッケンの若さゆえの元気に、ニンジャは顔を綻ばせた。
「ニンジャ……」
「ソルジャー殿か、お早う」
「あぁ……」
まだ少し眠たそうに目を擦り、ソルジャーがキッチンに入ってきた。
「ブロッケンと会ったか?」
「ブロッケンあぁ…。スゴい勢いで走ってきて 『よぉ、ソルジャー!』って背中バシーンッて叩かれた……」
思い出したように背中を撫でるソルジャーは、ニンジャの方へ寄ってきた。
「こら、包丁を持っている。危ないでござるよ」
味噌汁の具である野菜を切っていた。ニンジャが日々 刃を整えている包丁は 切れ味は抜群で、たまに使うメンバーからは「切れすぎて恐い!」と言われる程だ。
「なら、包丁を置いてくれ」
「御主が離れれば良いだろう…」
「それは嫌だ…」
駄々を捏ねるソルジャーは、ニンジャを背後から抱きすくめた。仕方なく包丁をまな板の上へ置き、くるりと身体の向きを反転させる。
「朝から 甘えたでござるな……」
「グム……」
ニンジャの首筋に顔を埋めるソルジャーは、徐にマスクを鼻の上まで上げると マフラーを少し緩めた。
「暖かそうだな」
「そうでござろう?」
「あぁ。私の分は無いのか?」
「……無いでござるよ」
「えぇー……」
落ち込んだような声を出し、ニンジャに身体を預ける。体格差は無いが、少しばかり大きなソルジャーの身体を ニンジャはよろけながらも支える。
「マフラー…欲しいなぁ…ニンジャの手作り…」
「紅い毛糸しかないでござる」
「いいよ、それで」
夫婦みたいじゃないか。
「そ、ソルジャー殿?!」
ソルジャーの言葉に、ニンジャは耳まで赤くする。急いでマフラーで顔を隠そうとするが、ソルジャーはそれを阻止した。
「可愛いなぁ、私の奥さんは……」
「拙者、御主と結納を交わした覚えは…っ!」
「フフフ、マフラーと同じくらい頬を赤くして……、私を煽って どうしようというんだい、ん?」
「だから、ちがぅ…っ!ソルジャ…っ」
キッチンで押し問答する二人。すると。
「ニンジャー、起こしてきたー」
「ふぁぁああ……」
「ったく…、この王子を起こすなら もっと優しくだな…」
「なっ、貴様ら…っ!」
「「ゲェーー!!」」
キッチンで対面してしまった二人と三人。アシュラは動じずに腕を組んで 怪訝そうに二人を見つめている。しかし、先程まで大欠伸をしていたバッファは 金色の目を見開き 眠気など吹き飛ばされ、ブロッケンも その光景に 信じられないとばかりに口を大きく開けて驚いた。一方のソルジャーは 目を丸くしたが アシュラ同様動じず。ニンジャの身体にまわした腕は離れぬまま。ソルジャーの腕の中にいるニンジャは 恥ずかしさと驚きに また顔を紅くした。
「き、きききき貴様らっ!タイミングが…っ」
「見られてしまったなー」
二人の全く別々な反応に、バッファとアシュラは察して 「あー、はいはい」と大人の対応。しかし それでも分からないブロッケンは、
「な、なぁ…。二人とも 何でくっついてんだ?」
と 少し焦って隣に立っているバッファの腕を掴んで聞いた。
「あー……、まぁ、うん。色々あるんだよ…」
苦笑いし、 曖昧に答えるバッファ。それでも首を傾げるブロッケンに、「ほら、朝の占いが始まるぜ?」と無理矢理背中を押して リビングへと連れ出した。
「……はぁ。まだ お子ちゃまが居るんだ、場所を弁えろよ。おしどり夫婦」
残ったアシュラがため息をつき、「あぁ、イボンヌに会いたい…」と一言呟いて リビングへと歩いて行った。
「あ、あ ああ……!!」
「"あ"? 」
「ああああああ!!! もうダメでござるぅぅう!!」
「わっ、ニンジャ!」
ひしっ!とソルジャーの上着にしがみ付くニンジャは、赤くなったままの顔を ソルジャーの胸にグリグリ押し付けた。
「は、ははは恥ずかしぃ…っ!死ぬ!恥ずか死するっ!」
壊れたようにそう叫んだニンジャが、突然まな板に置かれていた包丁へ手を伸ばした。
「あ、こらっ」
それを寸前で止めるソルジャー。顔を上げたニンジャは 恥ずかしさのあまりに涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃ。今までのクールでお高くとまっていたニンジャとは うって変わったその子どもの様な姿。
「ソルジャー 殿の、せいで ござる…っ! ああもう バレた!」
「はいはい、私のせいだな…」
ニンジャの背中を撫でて宥める。怒るでもなく、ただ撫でるその大きな手に、ニンジャの怒濤に溢れていた感情は少しずつ収まり、強く握りしめていた手は 上着を離した。握った跡がくっきりと残っていた。
「ニンジャ?」
「すまぬ、ソルジャー殿。……取り乱して、しまった…」
「ハハハ、大丈夫だ。私の お前への愛は これだけでは無くならないよ」
「うっ……」
少し気まずそうにソルジャーを見上げると、ニンジャは恐る恐る腕をソルジャーの背中へまわした。その動きにソルジャーが首を傾げると、ニンジャは顔を背けてぼそりと呟いた。
「拙者も、その…… ソルジャー殿が す すき… でござる…」
ニンジャは、ぼふんっと音がしそうな程 身体中が熱を帯びるのが分かった。
「は、離すでござる!!」
ソルジャーの腕のなかでもがくが 中々脱出出来ない。
「誰が離すか!絶対離さん!!うおおおおニンジャぁぁぁああ」
ソルジャーは溢れる感情のあまりに自我を忘れるほど叫び、身の危険を感じたニンジャは 忍法で姿を消したという。
「ニンジャぁぁぁああ!どこだー!出てきてくれーー」
(……最初からこうすれば よかった!)
「なぁ、いつになったら 朝飯食えるの?」
「さぁな。あー、俺の星座 今日7位かよー。微妙」
「オレ 4位!」
「………あぁ、イボンヌか。そろそろ 有給でもとるから。あぁ、待っていてくれよ…」
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