異国文化について
『異国文化について』
「これが"蕎麦"でござる」
「"ソバ"……」
『日本の食い物が食べたい!』と言ってやって来たブロッケンJr.は、初めて見るこの麺料理をジーッと凝視した。
「これは、ラーメンとは違うのか?」
「あぁ。ラーメンは 中国で出来た食べ物だが、蕎麦は日本の食べ物でござる。こうやって、啜って食すのだ」
言ってから、ズズズッと見本を見せてやった。拙者の食べ方に「おぉっ」と声をあげ、見よう見真似で挑戦してみる。
「ん?んん…?」
上手く啜りきれていないが、初めてにしてはまぁ上出来だろう。
「馴れれば綺麗に食える。今のでも十分だ」
「へぇ……」
異国人にしては綺麗な箸使いをするブロッケンJr.。白人の中でも特に色の薄い皮膚で、しなやかに伸びた細い指が箸を使って器用に蕎麦を扱う。おおよそ軍人、ましてや超人ファイターとは思えないような手の綺麗さ。
「御主の手は、おなごの様に綺麗だな」
「オナゴ?」
「"女性"という意味でござるよ」
そう教えると、ブロッケンJr.は少し眉をしかめた。あぁ、そうか。『女性的だ』と言われて喜ぶ男などあまり多くはない。
「すまぬ、気を悪くさせてしまった。"綺麗な手だ"と言いたかったのだが、如何せん上手い言葉が出なくてな……」
「いや、いいよ。確かに言われるから、『お前の手はファイターじゃないようだ』って」
自分の細く白い指を撫でながら、ブロッケンJr.は呟いた。奴の目の前に置かれたていた蕎麦は半分も無く、若さゆえの食欲に少し羨ましく思った。
「ファイターとして使うには、些か勿体無いと思わせる手だ……」
蕎麦を啜った。独特の香りの良さと、口に広がる味。この日本染みた物を、目の前の独逸軍人と共に食うなど誰が想像できたものか。
「まぁ、これでも十分戦える代物だけどな」
拳を握り、開きを繰り返したブロッケンJr.は、再び蕎麦へと目線をうつした。「次はいつ食いに来ようかな」など計画を立てながら箸を進める。
「次もニンジャに頼んでいいか?日本食」
「あぁ。それまでに 旨い店でも探しておいてやろう」
拙者の言葉に嬉しそうに笑う。その顔はまだ少し子どもらしさが残っていて、大人と子どもの境目にいるようだ。
「次は、"サマー・フェスティバル"とやらに行ってみたい」
「む、夏祭りか。それなら夏に来るがよい。屋台や花火が楽しめるぞ」
「あとあと、"ナベ"ってのも」
「それは冬の方がいいな……。拙者が作ってやろう」
「やったー!!」
我が国の文化を堪能する目の前の軍人に、思わず頬が緩んだのは内緒だ。
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