冬に近付く

『冬に近付く』








先程までどんよりと曇っていた空に、稲妻が走った。

「雷、ですね……」

「あぁ、そうだな……」

キン肉ハウス内に居るのはウォーズマンとミートだけ。他のメンバーは これから開かれる宴会にと 近くのスーパーへ買い出しに行っていた。

「王子達、傘持って行ったかなぁ」

「あのメンバーだ、テリーかロビン辺りが 機転を利かせてくれるさ…」

窓から外を覗き込む二人。重く雨を含んだ雨雲が、徐々に大きさを増していき、カーテンを開けていただけのハウス内を暗くした。

「電気付けますね」

ミートがふと窓から離れた時。



ピカッ


「あ、光った」


ウォーズマンが窓辺で呟く。




ゴロゴロゴロゴロ……




盛大な落雷音に、小柄なミートの身体はビクンッと跳ね上がった。そのまま何度か落雷音が響くが、電気は一向に付かない。

「ミートくん?」

不思議に思ったウォーズマンが 電気のスイッチの方へ視線を向けると。


「………っ」ガタガタガタ



壁のスイッチの下で、ミートが踞っていた。只でさえ小さな身体を更に縮こませ、小さく揺れるその姿に、ウォーズマンは何事かと目を丸くする。

「ミートくん、大丈夫かい?」

出来るだけ優しく。ウォーズマンはミートの元まで歩み寄り、しゃがんで話しかけた。

「す、すみません…っ」

俯いたままミートが答える。その声は恐怖のあまり震えていた。

「ぼく、どうしても雷が怖くて……っ。急に音が鳴って、驚いちゃって…」

ごめんなさい。


申し訳なさそうに謝るミートの頭を、ウォーズマンはポンポンと宥める様に撫でた。

「気にすることないさ、だれだって怖いものはあるよ。だから、ほら。顔を上げて?」

ウォーズマンの紡ぐ言葉に、ミートは恐る恐る顔を上げた。涙で濡れた目を擦るその姿は、年相応のあどけない少年で。


(あの キン肉マンの参謀…いつものミートくんには見えない、な……)


目の前の少年が、普段の大人びた言動が目立つ彼とは程遠い気がした。


「うぅ、…もう、なって…なぃ……?」

「……あぁ、鳴ってないよ」


「そっか…、良かった……」


涙で濡れるミートの頬にウォーズマンは手を添えた。泣いた後で暖かさが残る頬は赤く染まり、林檎のよう。


「あ、あの…、ウォーズマンさん……」

「なんだい?」


モジモジと指先を遊ばせながら、ミートが答える。


「…一緒にいてくれて、ありがとぅ…ございます…。ぼく一人だったら、どれだけ、心細いか…っ」


いつもなら、王子が 一緒に居てくれるんですが…。



「……そうか」


小さく呟いて、徐にミートの身体を抱き寄せた。腕の中にすっぽり入ったその人は、事態が飲み込めずにあたふたしている。

「え、ウォーズマンさん…っ?」

「今は、俺がキン肉マンの代わりになるから。存分に 頼ってくれ……」

ザアザアと雨の音がハウス内を満たす。ウォーズマンの腕の中に囚われたミートは、身体の横につけていた両腕を ウォーズマンの首にまわした。

「ミート、くん……」

「ありがとう、ウォーズマンさん……」



突然の雷やら何やらで 二人の距離は一気に狭まった。ミートは ウォーズマンの仮面に唇をくっ付けた。小さなリップ音の後に 抑えた可愛らしい笑い声。


「ミートくん、大胆だな」

「ウォーズマンさんこそ」



互いに微笑み合う。


外ではパシャパシャと帰路を急ぐ集団の足音が聞こえてきた。





冬を告げる雷が、二人の始まりも告げる。





――――――――――

「ミートよ、大丈夫だったか?!」

「王子!ちゃんと傘を持って行ってましたか!」

「ハハハ!ミーとロビンでね。キン肉マンの大事な身体を傷付けたりなどしないさ」

「全く、お陰で俺達はずぶ濡れだぜ?」

「いいじゃないか、バッファ。"水も滴る良い男"って言うじゃないか…!」

「ケッ!ロビンは濡れると錆びるから傘持ってたんだろぉ」

「ほぅ……、私の必殺技を食らいたいのだな」

「わわわっ!!落ち着けロビン!」

「離せウォーズマン!あの牛野郎め!」


「……そういやぁ、ミート。再度聞くが、雷は大丈夫だったか?」

「はい、ウォーズマンさんが一緒だったので…」

「そうか そうか! よし、安心したところで、酒盛りじゃー!!」

「YEAH!!!」

「皆さん、飲み過ぎないでくださいね!明日も練習なんですから……」








  

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