trick or treat ?







「珍しいな、」

「………」

アシュラの問いを無視したまま、ニンジャは無言でなまクリームを混ぜていた。ガシャガシャと、泡立て器とボールがぶつかりあう音。ニンジャが洋菓子、とりわけケーキを作るのは そう滅多にない。普段何気無くニンジャの作る菓子を食べていたアシュラは そう考えた。

「今日は、特別な日なのだろう」

ボソリとニンジャが言った。アシュラは今日の日付を思い出し、あぁ…… と声を漏らす。

「死者がこの世に舞い戻る日……だったか」

「拙者も詳しいことは分からぬ。ただ、ブロッケンとソルジャーに 『菓子を作れ!』とねだられた故……」

フゥ……、とため息混じりに答えた。まだ子供染みた言動が目立つブロッケンと、地球の文化に興味津々なソルジャーのことだ、中途半端な知識で とりあえずそのイベントに肖ろうというのだろう。今の時間からしたら、きっとおやつの時間には出来上がる寸法だ。ニンジャは既に焼き上げていたスポンジに、器用にデコレーションを開始した。

「カカカッ、器用なもんだな。あの泣く子も黙り恐れおののく"悪魔六騎士"の一人とは思えない……」

からかう様に言い放つと、ニンジャはジロリとアシュラを睨んだ。

「おぉ、恐い恐い」

「それ以上申すと、御主の分の甘味はバッファの腹の中でござる…」

「それは頂けないな……」

御主も大概、丸くなりおったではないか。ニンジャの言い返しに、アシュラは小さく苦笑いした。キン肉マンとの死闘の末、様々なことを学ばされた今のアシュラには、悪魔六騎士であった頃の残忍さはあまり感じられなくなった。傲慢さは未だに残っているが。アシュラと話ながらも手先を動かすニンジャは、どこで買ってきたのか、可愛らしい砂糖菓子の飾りまで乗っけていく。いよいよファンシーな仕上がりになっていく目の前のケーキに、アシュラは口角を上げる。あぁ、悪魔でもここまで性格が変わっていくものなのか、これが 平和がもたらすものなのか。

「……なんだ、」

「いやぁ、そんな蛇も恐れる眼差しで ケーキを作る姿が妙に滑稽でな……」

「ふん、何とでも言え……」

飾りつけを終えたニンジャは、壁に掛かる時計に目をやった。

「時間が空いたな」

「おい、クリームが残ったぞ?」

アシュラは生クリームが残ったボールを手にとって言った。

「食えばよい」

アシュラに背を向けて、ニンジャは身に付けていたエプロンを脱いだ。自前の忍装束を汚すわけにはいかない、と 家事をする際はエプロン 又は割烹着を身に付けるニンジャ。リビングまで来て、パサリとテーブルにエプロンを放り、ソファーに身を沈めた。

「休むのか?」

「当たり前だ。昼飯を食い終えてからずっと立っていたのだ、幾分か休ませろ…」

ハァ……、と溜め息ついたニンジャの横に無理矢理身体を捩じ込ませたアシュラ。その手には先程の生クリーム入りボール。

「なんだ、それは」

「カカカッ!貴様に塗るものだ」

「は?」

間の抜けたニンジャの声に、アシュラはまたカカカッ、と笑った。こやつ、またろくでもないことを……。ニンジャは身構えたが、ガシリと四本の腕で身体を押さえ込まれたので、身動きがとれなかった。

「そんなに強張るな、クリームを食うだけだ……おっと、その前に…」

アシュラは何かを思い出した。そして、ニヤリと不気味に笑い、ニンジャに問う。




「trick or treat ?」




「菓子など 今は持っておらぬ…」

見ればわかるだろう?確信犯であるアシュラは、そうだろうな と一言言い、生クリームを指で掬い、ニンジャに見せ付けるように舐めた。その仕草が妙に艶かしい。ニンジャはそっぽを向こうとするが、アシュラのの手が無理矢理元に戻す。

「甘いな…、とても甘い……」

「当たり前だ…… 」

「さて、どこに付けてやろうか」

ニンジャに覆い被さり、多めに掬った生クリームを、ニンジャの頬や鼻の頭に付け、その後 シュルリとニンジャの襟巻きを取り去った。白い首筋にクリームを塗り、噛み付いて舐め上げる。「ヒッ」とニンジャの小さな声が喉から鳴り、それにアシュラはカカカッ…、と笑い声を漏らす。屈服させる時のこの瞬間が、一番気持ちがいい……。


そして、忍装束を捲り上げ、下に着る鎖帷子越しに生クリームをデコレーションしていく。

「お、御主…っ、そんな……」

「貴様の残した生クリームの処理を手伝ってやっているんだ、感謝しろよ」

裾が落ちる、咥えとけ。アシュラはそう言うと、ニンジャの口に忍装束の裾を咥えさせ、自分はニンジャの身体に付いた生クリームを舐め始めた。ペロリ ペロリ、と舌だけがニンジャの肌を撫でていく。

「うっ…あぁ、ぁ、あっん……っ」

「変な声を出すな、クリームを舐めているだけだろう?」

鎖帷子の下のニンジャの肌は、少し赤みを帯びてきた。下からニンジャの顔を見上げたアシュラは、忍装束を咥えて、じわじわと襲ってくる快感に身を焦がれるニンジャの姿を楽しそうに見ていた。







「む……、もう無くなってしまった…」

「ふぁ…はぁ…、んっん…ぁふ、」

名残惜しそうにボールの中を見つめるアシュラ。綺麗にボールの中の生クリームを掬い、呼吸を荒げるニンジャの唇に指を突っ込んだ。口の中に入ってきたアシュラの指を、ニンジャはゆるゆると舌で舐め上げる。その緩慢な動きに、アシュラは背中にゾクゾクと甘い電流を感じた。あぁ、ヤりたい。

「ニンジャ、場所を変えるか?」

「ふぇ……あひゅら…」

「ここでは いずれ誰かが来るからな」

「ちょ… 悪戯は、終わりでござろぅ……」

「何を言うか」

アシュラは立ち上がり、ソファーに縫い付けていたニンジャの身体をヒョイと持ち上げた。急に持ち上げられた反動で、ニンジャはアシュラの首に腕をまわした。その様子に満足そうに笑うアシュラ。

「私がこれくらいで満足すると思うか?」

不気味な笑みを浮かべるアシュラに、ニンジャは身震いした。
もう、逃げられない。


「まだまだたっぷり悪戯してやろう……、な?」






その後、リビングに置き去りにされたケーキを見つけたブロッケン・ソルジャー・バッファ。

「さっすが、ニンジャ!! めっちゃウメェ」

「ふむ。しかし、そのニンジャとアシュラが居ないな……」

「アシュラなら部屋で寝てんじゃねぇの?ニンジャは……買い物?」

「残しておけば大丈夫だっつぇ」

「………そうだな!」



【悪戯なハロウィーン or お菓子なハロウィーン ?】




  

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